馬を待たせない交換荷台

王都麦酒工房では、馬が仕事をせず一日を終えていた。

荷車が着くと、百樽を一本ずつ下ろすのに二刻。空樽を積むのにさらに一刻。馬と御者は工房前で待ち続け、一日に往復できるのは二回だけだった。注文は八百樽、納期は明日。工房主は運送係の島守里世へ、遅延の責任を負わせようとしていた。

里世は車輪も馬も増やさなかった。

荷台を車輪から外せるよう、四本の留め栓を抜き差し式にした。工房前には、百樽を積み終えた荷台を脚の上へ置いて待たせる。

最初の馬車が到着する。御者が栓を抜き、空の荷台を脚へ残した。馬と車輪だけを隣へ動かし、積載済みの荷台の下へ入れる。四本の栓を戻す。

砂時計の砂が十一分落ちただけで、馬車は百樽を載せて門を出た。

工房主は口を開けたまま、残された空荷台を見る。職人たちは馬車を待たず、そこへ次の百樽を積み始めた。運ぶ時間と積む時間が重なり、どちらも止まらない。

二往復目からは、工房の職人と御者が顔を合わせることさえなかった。職人は脚の上の空荷台へ樽を積み、御者は完成した荷台だけを拾う。積み込みが少し遅れても馬車は別の満載荷台を選べるため、一つの作業遅れが全便へ広がらない。

馬の汗を量った獣医は、待機中に日差しを浴び続けた前日より体温が低いと記録した。走行距離は三倍でも、止められて苛立つ時間が消え、飼葉の消費は一・二倍にしか増えていない。御者の残業賃も、八人増員する見積もりの四分の一だった。

納品先では百樽の数を荷台単位で確認でき、一本ずつ路上へ並べる検品もなくなった。交換されたのは荷台だけではなく、待つことを仕事だと思っていた一日の流れだった。

夕刻までに同じ馬車は六往復した。従来の三倍。馬が工房前で立っていた時間は一日六刻から合計四十四分へ減り、八百樽すべてが納品門を通った。

最後の御者が受領札を掲げると、工房主が里世へ差し出しかけていた解雇状を裏返した。

そこへ書かれたのは、交換荷台二十台の製作注文だった。

「運送部を新しくする。設計も運行も、里世、お前に任せる」