駐車場に午後の影
月岡谷泰成は、父から六台分の月極駐車場を受け継いだ。
五台は契約済みで、一台はいつも空いている。舗装のひびから草が出る以外、仕事らしい仕事はない。
泰成は月に一度振込を確認し、あとは空いている区画へ椅子を出して日向ぼっこをした。
高校時代の友人、志筑文吾が仕事を辞めて戻ってきた。
「見事に何もしてないな」
駐車場の泰成を見て言う。
「見回り」
「何を?」
「影の移動」
「重要業務?」
「季節が分かる」
文吾も折り畳み椅子を持ってきた。
二人で空き区画の白線内へ座る。駐車場なので、椅子もきちんと枠へ収めた。
昼は近所の焼き芋屋から一本ずつ買った。
新聞紙を開くと、蜜の甘い香りが立つ。
「次の仕事、探さないの?」
泰成が訊く。
「探す日を探してる」
「今日は?」
「日当たりがいい」
文吾は焼き芋を半分に割った。黄色い中身から白い湯気が上がる。
「お前は一生ここ?」
「影が飽きたら考える」
「飽きる?」
「毎日違うから難しい」
午後一時、隣のマンションの影が一番端の区画へかかった。
二時には、二人の靴先まで来た。
三時前、契約者の一人が車を取りに来て、「管理お疲れさまです」と頭を下げた。
泰成は何も管理していない気がしたが、文吾が先に「順調です」と答えた。
落ち葉が一枚、白線の上へ落ちた。
泰成が箒を取りに行こうとすると、文吾が止める。
「一枚なら、まだ景色」
「十枚になると?」
「清掃」
二人は五枚まで待ち、六枚目で立ち上がった。
共同作業は三分で終わった。
夕方、影が駐車場を全部覆った。
椅子を畳み、自動販売機の温かいコーンスープを買う。缶を振ると、底で粒が音を立てた。
「今日の成果」
文吾が言う。
「落ち葉六枚」
「焼き芋一本」
「影、一区画から六区画へ」
「立派な報告書だ」
泰成は笑い、空いた一台分を見た。
車がないから、二人の午後が置けた場所だった。
コーンの甘い香りと焼き芋の焦げた皮の匂いが、冷え始めた舗装の上へ残る。
文吾は明日も来ると言った。仕事探しは、影がもう少し短い日にするらしかった。