黄色いしみの上

千紘は、別れた彼が置いていった白いシャツを着てカレーを食べた。返却用の段ボールに入れ忘れた一枚だった。袖が長く、手首のところで二度折った。

彼は汚れを嫌った。食事の前には必ず紙ナプキンを膝へ広げ、千紘がソースをこぼすと、笑いながらすぐ拭いた。「ほんと、放っておけないな」が口癖だった。優しい声だったが、別れ際には「一緒に暮らすには雑すぎる」と同じ口で言った。

千紘が誰にも言えないのは、腹が立つことではなく、彼の評価を信じかけていることだった。洗濯物の畳み方も、鍵の置き場所も、食べ方も、全部だめだったのかもしれない。次に誰かと暮らしても、また迷惑をかけるのではないか。

テーブルには、近所の店で買ったバターチキンカレーとナンが一枚。蓋を開けると、焦がしバターの香りが立った。千紘はナンをきれいな三角にちぎろうとして、途中で裂け目を曲げた。大きさの違う二片ができた。

小さいほうでカレーをすくう。ソースが指へつき、慌てて舐めた。大きいほうは折って食べた。誰も注意しない。静かな部屋で、自分の咀嚼だけが続いた。

半分ほど食べたところで、カレーが袖口へ落ちた。白い布に黄色い点が広がる。千紘の手は反射的にティッシュへ伸びた。水で叩けば間に合う。漂白剤もある。彼のシャツだから、返すなら落とさなければならない。

けれど段ボールは、もう宅配業者が持っていった。彼はこの一枚がないことにも気づかないだろう。

千紘はティッシュを取らず、袖をもう一度折った。黄色いしみは内側へ隠れた。汚れたから価値がなくなるのではない。洗うか、捨てるか、部屋着にするかは、自分で決められる。

最後のナンは、さらに不格好にちぎれた。千紘はその形のままカレーをぬぐい、容器の底が見えるまで食べた。

洗えば薄くなるかもしれないし、残るかもしれない。どちらでも、この夜に食べた一皿まで彼の持ち物にはならない。

食後、シャツは返却箱ではなく、自分の洗濯籠へ入れた。しみの上から、もう一度袖を折って。