黄色いテント

倒壊した庁舎から運び出された私は、黄色い医療テントへ入れられた。

額に切り傷があり、左肩も痛む。救護員は名を聞き、手首へ黄色い紙帯を巻いた。赤は重傷、黄は待機。そういう分類だと知っていたから、おとなしく簡易椅子へ座った。

紙帯には傷病名ではなく、「保留」と印刷されていた。裏には私の所属する新聞社名まで書かれている。瓦礫の中で身分証を見せる前から、彼らは知っていたことになる。

もう一つ、救護員は誰一人として聴診器を持っていなかった。箱に並ぶのは消毒液でも包帯でもなく、透明な袋と油性ペンばかりだった。

簡易机には患者名簿が開かれていた。私の行だけ搬送先が空白で、備考欄に「媒体回収後」とある。救護員は慌てて頁を閉じた。

私は地方紙の記者だ。地震直前、庁舎地下で建設会社との不正契約書を撮影していた。胸ポケットには小型カメラがある。

「肩を診てください」

訴えると、白い上着の男は私の肩ではなく、ポケットを触った。

「貴重品は預かります」

「自分で持てます」

男の表情が消えた。

テントの外では、救急車の音と人々の叫びが続く。だが入口から運び出された黄色い紙帯の人は、一人も戻らない。行き先を尋ねても、別の治療所だとしか答えなかった。

隣の椅子にいた庁舎職員が何か耳打ちされ、顔色を変えた。透明袋へ携帯を入れた直後、奥の仕切りへ連れていかれる。袋には証拠品番号が振られていた。

風が吹き、テントの裾がめくれた。外に見えたのは瓦礫ではなく、灰色の壁だった。救急車の音は天井のスピーカーから流れている。

私は椅子を倒して入口へ走った。布を押し開けると、そこは庁舎地下の資料保管庫だった。テントは部屋の中に張られ、鉄扉の前には警備員が二人いる。

白い上着の男が胸ポケットからカメラを抜き取った。

「救助者名簿には載せるな。余震で所在不明ということにする」

外の崩落音がまた鳴った。今度は、スピーカーの再生ボタンを押す指が見えた。

黄色は治療を待つ色ではなかった。

書類から名前を消すまで、ここで待たせる者の色だった。