黒猫便の置き配写真
配達を終えたナディ・セロの荷車から、王家の紅玉が見つかった。
班長ヴァルゴは、待っていたように衛兵を呼んだ。
「やはり盗んでいたか。貧民街育ちは手癖が悪い」
朝からナディの靴だけを隠し、重い荷を二人分積ませたのも彼だった。集配所の仲間へ〈近づくと財布が消えるぞ〉と言いふらし、昼食の席まで空けさせていた。
「その包みは見たことがありません」
ナディの配達台帳には、その日預かった全荷物の封印番号が並んでいた。紅玉の番号だけはなく、荷車へ積み込まれた時刻も記録されていない。
「おまえの荷車にある。それが証拠だ」
ヴァルゴは紅玉の包みを高く掲げ、受領票へ〈配達員による窃盗〉と署名した。
黒猫便の監察官が駆けつけた。紅玉は午前中、貴族邸へ届けられるはずだった品だという。
「最後に包みへ触れた者を確認します」
「そんなもの、こいつに決まっている」
ヴァルゴが封印紐を引きちぎる。
すると包みの側面に、一枚の光景が浮かび上がった。黒猫便の高額荷物は、封印が持ち替えられるたび、周囲を自動撮影する。
映っていたのは、集配所の裏口だった。
ヴァルゴが左右を確かめ、ナディの荷車へ包みを押し込んでいる。しかもカメラへ顔を向け、笑っていた。
『これで泥棒として追い出せる。空いた配達区は弟にやる』
独り言まで記録されている。
ヴァルゴは包みを床へ落とした。
「違う。これは以前の訓練で――」
「封印時刻は本日十一時七分。あなたが欠配報告を出した二分後です」
監察官は受領票を指した。ヴァルゴ自身が今しがた署名したことで、包みを発見した場所と時刻も正式記録になっている。言い逃れの余地はなかった。
ナディは荷車から残りの荷を下ろした。どれも配達済みの緑印が付き、遅延は一件もない。
「私は、次の便へ行ってもよろしいですか」
監察官がうなずく。その横で、衛兵がヴァルゴの腕を取った。
班長は助けを求めて仲間を見回したが、誰も目を伏せなかった。
監察官は窃盗告発票を破り、代わりに王都衛兵隊の命令書を読み上げた。
「ヴァルゴ・ダス。証拠捏造および宝物窃盗の容疑で、逮捕する」