おはぎの白いひと口

立花花純は、祖母の一周忌の台所で、おはぎを一個だけ取った。

居間では親戚が笑っている。結婚して二年の花純へ、「次は赤ちゃんね」と言った人もいた。花純は曖昧に笑い、湯呑みを下げるふりで席を立った。

夫は法事を休もうと言ったが、花純は来た。祖母へ報告した場所で、失ったことも報告しなければならないと思ったからだ。けれど遺影の前にはいつも誰かがいて、線香を上げる短い時間にも言葉を出せなかった。

妊娠していたことは、夫以外には話していない。十日前、病院で心拍が止まっていると告げられた。来月の法事で驚かせようと、祖母の写真へだけ先に報告していた。病院から帰った夜、その写真を伏せた。嬉しかった時間まで消せば楽になると思ったが、伏せた額の裏側に、その時間は残り続けた。

母が作ったおはぎは、祖母のレシピどおりだった。もち米を潰しすぎず、粒を半分残す。小豆の甘い香りが手のひら近くにあり、噛むと内側の米が粘って歯へまとわりついた。

花純は外側の餡から少しずつ食べた。

子どものころ、祖母は花純が残した白い中心を自分の口へ入れた。「餡だけ食べる子だね」と笑われ、花純も笑った。今は、誰かに残りを渡すことができない。

半分食べたところで、腹の奥が空白のように感じた。痛みはもう弱い。弱くなったことまで、申し訳なかった。

居間から母の足音が近づいた。

花純は急いで食べきろうとしたが、喉を通らなかった。餡のついた一口を皿へ戻す。白い米が切り口から見えた。

母が台所へ入り、皿と花純の顔を見た。何も聞かず、戸棚から祖母の花柄の小布を出す。

花純は鞄から、外せずに持っていた病院の腕輪を取り出した。名前と日付だけが印字されている。それを、残した一口の隣へ置いた。

母の手が止まった。

長い説明の代わりに、花純はおはぎの白いところを指で示した。母はうなずき、小布を皿の上へそっとかけた。隠すためではなく、あとで食べられるように。

居間へ戻る声がかかっても、二人はすぐには動かなかった。

花純は一口を残したまま、初めて失ったものを誰かと同じ台所に置いた。