お父さんを捨ててきて

【戸祭家・家族グループ 土曜日午前九時】

母:

買い物に出ています。

悪いけど、お父さんを捨ててきて。

粗大ごみ券は貼ってあります。

娘:

え?

息子:

母さん、送る相手を間違えてない?

母:

間違えてないよ。

もう腰が抜けてるし、座るたびギシギシ鳴るでしょう。

明日、新しいのが来るから。

父:

本人もこのグループにいます。

娘:

お父さん、生きてる?

父:

今のところは。

腰は痛いが、抜けてはいない。

息子:

粗大ごみ券、どこに貼ったの。

父:

探すな。

娘:

お母さん、さすがに家族の同意が必要だと思う。

母:

前から相談してたでしょう。

二階から下ろすのが大変だから、二人で運んでって。

父:

私は二階にいない。台所でコーヒーを飲んでいる。

息子:

「新しいのが来る」ってどういうこと。

父:

それは私も聞きたい。

娘:

再婚相手?

父:

展開が早い。

母:

色は茶色。今度のは背もたれが高いよ。

お父さん、前のより気に入ると思う。

父:

私の後任を私が気に入る前提なのか。

息子:

警察に相談したほうがいい?

父:

家族の誤解を警察へ持ち込むな。

娘:

とりあえず、お父さんを安全な場所へ。

父:

自宅が危険地帯になった。

 ここで母からの返信が七分途絶えた。その七分間に、娘は父へ電話し、息子は粗大ごみの日程を検索し、父は念のため生命保険証券の置き場所を確認した。

父:

念のため聞くが、私の価値は粗大ごみ券で何円分だ。

息子:

身長で計算すると千円かな。

娘:

人間に料金表を当てないで。

父:

息子よ、遺言から外す。

息子:

捨てられる前提で遺言を書くな。

娘:

上着に券を貼られてないか確認した?

父:

家族への信頼まで剥がれそうだ。

母:

ごめん。

「お父さんの座椅子を捨ててきて」です。

音声入力で「の座椅子」が消えてた。

スーパーが騒がしくて確認しなかった。

父:

重要部分が消えすぎだ。

娘:

座椅子は二階?

母:

うん。粗大ごみ券も貼った。

明日、新しい座椅子が届くよ。

息子:

解散。

父:

待て。

全員、私を運ぶ方法まで真剣に考えていた件について話し合おう。

母:

帰りにプリン買うね。

父:

和解する。