きのこ洞の午後

フィネのきのこ洞では、朝も夜も分からない。

天井の蛍石が一定の明るさで光り、棚に並ぶ月茸が育つ。傘が銀色になったものだけを、小さな籠蜘蛛が糸で切り取り、背中の箱へ載せ、地上の転送台まで運ぶ。フィネが洞へ入る必要はない。

それでも最初の収穫日、彼女は入口に椅子を置いて見守っていた。

以前は冒険者ギルドの荷運び係だった。討伐隊が眠っている間に装備を磨き、夜明け前に食料を詰め、帰還すれば血まみれの荷を洗った。茶色の作業着は肩紐が伸びきり、背中には荷箱の角でできた裂け目がある。英雄たちは彼女の名を覚えず、「荷物」と呼んだ。

籠蜘蛛が一匹、月茸を運んでくる。八本の脚で慎重に段差を越える姿が、妙に誇らしかった。

転送台が青く光る。

《月茸三十籠、薬師組合が受領。売上金を入金》

これで一か月、暮らせる。フィネは洞の壁にもたれ、肩の力を抜いた。

籠蜘蛛の取り分には、洞の奥へ甘い樹液を置いてある。働いたものが腹を空かせない仕組みにしたかった。自分が受け取れなかった休息を、まず小さな八本脚へ渡すと、洞全体が味方になった気がした。

ギルド証が騒々しく震え始める。

『至急。黒牙隊が遠征に出る。荷運び役として復帰せよ』

命令文の末尾に、元管理官の署名があった。

『復帰しません』

『隊長がお前を指名している』

『名前を知っていましたか』

『細かいことを言うな。代わりが荷の配置を間違える』

『配置表は引き継ぎました』

『読みにくい』

フィネは笑った。英雄の剣より重い荷を持たせておきながら、字を読む努力は重すぎるらしい。

『では、遠征を延期してください』

『そんな権限が君にあると思うのか』

『行かない権限はあります』

ギルド証を洞の転送台へ置き、《返納》の印を押す。証は青い光に包まれて消えた。

籠蜘蛛たちも作業を終え、壁の小穴へ帰っていく。フィネは入口の扉を閉め、地上へ戻った。

今日は街へ行かない。庭の長椅子へ横になり、誰の荷物でもない両手を腹の上で組んだ。