ごはんの境界線

透花は、カレーとごはんの境目を崩さずに食べる人だった。正確には、彼と付き合っていた四年間だけ、そういう人だった。

彼は皿の右側にごはん、左側にカレーを置き、ひと口ずつ中央で合わせた。最初から混ぜる食べ方を見ると「味が単調になる」と眉をひそめた。透花は本当は、全部を大きく混ぜてから食べるのが好きだったが、たかがカレーで揉めるのも面倒で、彼の真似をした。

別れた理由は食べ方ではない。彼が海外赴任を選び、透花がついて行かなかった。それだけだ。けれど別れてから、友人に「小さな我慢が積もったんだよ」と言われ、透花は急に不安になった。自分は四年間、愛していたのか、耐えていただけなのか。どちらかに決めなければ、次へ進めない気がした。

一人の夕食に作ったカレーは、白い皿の左へよそった。右にはごはん。中央に、細い境界線が残る。皿を持つと縁が温かい。

最初の五口は、彼の食べ方をした。ごはんを少し、カレーを少し、スプーンの上だけで重ねる。慣れた味だった。嫌ではない。むしろ、きれいに減っていく皿を見ると落ち着いた。

六口目で、透花はスプーンを境界線へ縦に入れた。ごはんの粒がカレーへこぼれた。続けて小さな円を描く。茶色と白が混ざり、皿の中央が昔の自分の食べ方になった。

ひと口食べる。粒の一つ一つにソースが絡み、口の中でほどけた。懐かしい。でも、彼と食べた四年間の味まで消えたわけではなかった。

透花は右半分を混ぜ、左半分はそのまま残した。どちらも食べた。好きだったことと、合わせていたことは、同じ皿にあってもいい。愛か我慢か、今夜決めなくてもいい。

最後のひと口は、境界線のあった場所からすくった。そこにはもう、白と茶色を分ける線はなかった。

混ぜた部分も、分けた部分も、最後には同じ空腹を満たした。四年間もきっと、ひとつの言葉だけでは味わい切れない。

透花は空の皿を見て、四年間をどちら側にも寄せなかった。