オクラホマ・ミキサーの四拍目
燈子は、啓一郎と踊れる順番を前夜から数えていた。
男子二十七人、女子二十七人。最初の位置から一人ずつずれるなら、曲の後半、ちょうど四拍目で啓一郎が来る。ノートの端に円まで描いて確かめた。途中で休む人、靴紐を結び直す人まで仮定し、三通りの予備計算もした。数学の小テストより真剣だった。
ところが本番、担任が欠席者を一人見落とした。
列がずれた。
燈子の前に来たのは啓一郎の一人手前、次は一人後ろ。本人は反対側の円を、何も知らずに回っている。近づくたびに誰かの肩へ隠れ、離れるたびにこちらを見た気がした。計算外の視線だけが、何度もぴたりと合った。
「何その顔」
三人目の相手に言われ、燈子は「日差しがまぶしい」と嘘をついた。
曲は容赦なく進む。手を取って、離して、回って、交代。啓一郎とは毎回、指一本ぶんすれ違う。昨夜の計算は完璧だったのに、現実だけが間違っている。
最終周。あと一人で曲が終わる。
啓一郎は次の相手の前へ立った。燈子も知らない男子と向き合う。もう仕方ない。笑って手を差し出そうとしたとき、音楽が急に止まった。
スピーカーの故障だった。
校庭にざわめきが広がる。放送委員が慌て、先生たちがコードを確かめる。
その隙に、啓一郎が列を一つ横切ってきた。
「昨日、数えてただろ」
「何を」
「俺と当たる順番」
「数えてない」
「ノート、机に開きっぱなしだった」
逃げたいのに、列の中では逃げ場がない。周囲の全員がこちらを見ていないことだけが、せめてもの救いだった。
啓一郎は燈子の前で手を出した。
「音が戻るまで、一回だけ」
「先生に怒られる」
「四拍ならばれない」
燈子はその手を取った。
一、二、三。
四拍目で音楽が復旧し、円全体が動き出した。啓一郎は元の位置へ駆け戻り、燈子も知らない相手と踊り始めた。
誰にも見られていないと思っていた。
けれど退場後、担任が出席簿で口元を隠しながら言った。
「次から、計算どおりに並べてやる」
燈子の青春は、先生の数え間違いと、四拍だけの正解でできている。