シングル追加料金
理央奈が申し込んだ離島ツアーは、二名一室が基本だった。
一緒に行く予定だった友人から、出発十二日前にキャンセルのメッセージが届いた。理由は短く、謝罪は長かった。二人で選んだ島の地図と、食べたい店の一覧だけが、共有アルバムに残った。
旅行会社から送られてきた変更票には、選択肢が二つある。
〈他の一人参加者と相部屋・追加料金なし〉
〈一名一室・追加料金一万八千円〉
キャンセルする欄は、その下に小さくあった。
理央奈は一万八千円という数字を見つめた。二人なら払わなくていい金額。一人でいるために徴収される料金。独身のまま年を取れば、家賃も旅行も食材も、こうして少しずつ割高になるのだろうか。
相部屋を選べばいいだけだ、と自分に言い聞かせた。知らない女性と三泊するのも旅の思い出になる。けれど理央奈は、夜まで愛想よくする自信がなかった。波の音を聞きながら、一人で本を読む時間を楽しみにしていた。
友人から二件目のメッセージが来た。
〈本当にごめん。キャンセル代は半分出す〉
〈一人で行くなら危なくない?〉
その「一人で」に、心配だけでなく哀れみを読み取った自分が嫌だった。
理央奈は旅行会社へ電話した。
「一名一室に変更してください」
担当者が金額を復唱する。一万八千円。理央奈は一度目よりはっきり「はい」と答えた。友人のキャンセル代の申し出は断った。予定が変わった責任まで背負うつもりはないが、自分が一人部屋を選ぶ差額は、自分で払いたかった。
出発日、ホテルの受付で二本のカードキーを渡された。
「予備です」と説明される。
理央奈は一瞬、使う人のいない鍵だと思った。それから、一本を財布へ、一本を鞄の内ポケットへ入れた。どちらも自分のための鍵だった。
一人旅が強さの証明になるとは思わない。夕食で相席の笑い声を聞き、寂しくなる夜もあるだろう。それでも、相部屋を断った不便も、余計に払った金額も、理央奈が欲しかった静けさの値段だった。
部屋の扉を開け、二本目の鍵を机に置く。その余分を恥じないと決めて、理央奈は海側のカーテンを開けた。