スイカは右へそれる

 鎌谷遼馬は、家族行事の段取りを任されることが多かった。

 集合時刻、持ち物、交通経路。海辺でのスイカ割りも、彼が午前中に砂浜の場所を取り、レジャーシートを固定し、飲み物を冷やした。

「そこまでしなくても」

 妹に言われたが、準備が足りず誰かが困る方が嫌だった。

 昼過ぎ、甥と姪が目隠しを巻いた。

「右、右!」

「行きすぎ!」

「今度は左!」

 全員が同時に叫ぶので、二人ともスイカとは反対へ歩いていく。

 遼馬は正確に誘導しようとしたが、笑い声にかき消された。

 最後は大人の番になった。

 妹が遼馬へ手拭いを巻く。

「私はいい」

「準備係も参加」

「誰が誘導するの」

「みんな」

 棒を持ち、十回回される。

 足元の砂が傾き、波の音がどちらから来るのか分からない。

「まっすぐ!」

「違う、右!」

「おじさん、その右じゃない!」

 遼馬は声を整理しようとしたが、どれも信用できない。

 結局、自分の勘で棒を振り下ろした。

 ぽすん、と鈍い音がした。

 当たったのはスイカではなく、砂へ埋めた浮き輪だった。

 目隠しを外すと、全員が腹を抱えて笑っている。

「誘導が悪い」

「途中から聞いてなかったでしょう」

「情報が多すぎた」

 次に祖母が挑戦した。

 遼馬は今度こそ一人だけで案内しようとしたが、祖母は「黙ってて」と言い、波と砂の感触だけで進んだ。

 棒はスイカの端へ当たり、皮に細いひびが入った。

「おばあちゃん、すごい」

「毎年やってるからね」

 皆でひびを広げ、包丁で切り分けた。

 赤い果肉へ塩を少し振る。汁が指を伝い、潮風と青い皮の匂いが混じった。

 遼馬の分は、中心から外れた少し白いところだった。

 それでも冷たく、甘かった。

 帰り支度をするとき、遼馬はチェックリストを出さなかった。

 皆で周りを見回し、忘れ物を拾う。甥が浮き輪を持ち、妹が空の水筒を集め、祖母はスイカの種を砂へ埋めようとして止められた。

 夕方の車内には、日焼け止めと海とスイカの香りが残った。

 予定どおり割れなかったスイカは、予定以上によく笑えた。

 遼馬は助手席で眠る甥の帽子を直し、次の行事では、準備するものを一つ減らしてみようと思った。