ゼロ秒の門
丹羽ソラトは零秒門の前で、剣を床へ置いた。
《零秒開門》
残り時間が0:00になった瞬間、門は一秒だけ開きます。
門は双方向です。
背後から百脚獣が迫る。先行組は門前で時間を調整し、零秒と同時に飛び込む算段だった。
《残り:5秒》
向こう側には安全都市。門を開けば逃げ切れる。
だが説明の最後の一行が、ソラトの目に刺さる。
《門は双方向です》
一秒あれば、人は通れる。百脚獣も通れる。
先行組が姿勢を低くする。
「ゼロで突っ込め!」
ソラトは門の中央へ立った。
三、二、一。
扉が光り、向こうで避難民たちが手を伸ばす。同時に百脚獣が跳ぶ。
ソラトは門へ入らず、地面の停止杭を蹴り上げた。扉は半分だけ開いたところで引っかかり、人一人も通れない幅になる。獣の脚が挟まり、こちら側へ引き戻される。
「何してる! 失格だぞ!」
門の向こうから怒号が飛ぶ。ソラトは残った攻略隊と獣へ向き直る。逃げ道は消えた。だが都市へ怪物を入れずに済んだ。
百脚獣は門を叩き続け、やがて朝の光に溶ける。夜行性だったのだ。
停止杭を外すと、門は通常の避難口として開いた。計測はとっくに終了し、全員失格表示になっている。
安全都市の住民が、門の向こうで頭を下げた。
《零秒通過者:0》
《タイムアタック失敗》
百脚獣が光へ溶けると、その脚の間から小さな夜行獣たちが現れた。都市の明かりを恐れ、門のこちら側へ逃げていた群れだった。
ソラトが零秒門を全開にしていれば、怪物だけでなく彼らも都市の防衛装置に焼かれていた。
停止杭を打った一秒は、両側の世界を隔てた。速く通り抜けるための門が、初めて境界として役に立った。
先行組の一人が失格表示を消そうとせず、その横へ《開けなかった者》と自分で追記した。
都市側の子供が、半開きの門越しにソラトへ水筒を差し出した。誰も通れない幅でも、物一つなら渡せる。
一秒の開門を逃げ道として使わなかったことで、門は初めて両側の者が互いを確かめる窓になった。ソラトは失格札を胸につけたまま、水を攻略隊と夜行獣へ分けた。
《都市防衛成功――一秒だけ開く最速の出口を、誰も利用しなかったため世界は生存しました》