タイムカプセル未開封
小学校の同窓会が終わった午後、大庭深雪、風間陽介、秋庭理佐は、校庭の桜の下を掘った。
二十歳になったら開けるはずのタイムカプセルは、誰かが日付を勘違いし、十五年遅れて土から出た。菓子缶は錆び、蓋の縁に泥が固まっていた。ほかの同級生は二次会へ向かい、掘り出し役だった三人だけが校庭に残った。歓声を上げるはずの瞬間は、スコップの土が落ちる音しかしなかった。
「中身、覚えてる?」と陽介。
深雪は「弁護士になる」と書いた。実際に弁護士になり、来月辞める。地方の窯元へ住み込み、陶芸を学ぶという。
「勝ったのにやめるの?」と理佐。
「勝敗だったら、やめられない」
陽介は卒業文集に「東京で映画を撮る」と書いた。東京には出たが、映画館の設備会社で働いている。四月から故郷へ戻り、閉館したミニシアターを一人で改修するつもりだった。
理佐は何を書いたか覚えていない。高校卒業後すぐ結婚し、二人の子を育て、今年から通信制大学で地理を学び始めた。
「たぶん、お嫁さんって書いた」と彼女は言った。「叶ったことにしていいのかな」
誰も答えなかった。叶った夢ほど、途中の形を説明しにくい。
陽介がドライバーを蓋の隙間へ差し込んだ。金属が短く鳴った。あと少し力を入れれば開く。
「やめない?」と深雪が言った。
「怖い?」
「昔の私に採点されたくない」
理佐も頷いた。「あの子、事情を知らないから厳しそう」
陽介は笑ってドライバーを抜いた。三人は缶を持って校舎裏へ行き、用務員から油性ペンを借りた。蓋に今日の日付と、それぞれの次の行き先だけを書く。
〈窯〉
〈映画館〉
〈大学〉
「次はいつ開ける?」
「開けたくなった人が一人で」と陽介。
三人は缶を埋め直さず、桜の根元のベンチに置いた。帰り道は三方向だった。深雪は山側のバス、陽介は商店街、理佐は子どもを迎える駅へ向かった。
夕方、校庭には錆びた缶だけが残った。蓋は閉じたままなのに、上に書かれた三つの言葉は、昔の夢より先に風雨へさらされていた。