ベランダに四本

蒼士が母の再婚したマンションへ行くと、兼人がベランダで物干し台を組み立てていた。

説明書は風に飛ばされ、手すりの外へ落ちかけている。蒼士は反射的につかみ、紙の端で指を切った。

「助かった」

「これ、左右逆です」

「やっぱり?」

母は仕事、兼人の息子は部活。休日の部屋には、血のつながらない男が二人だけ残った。

物干し台は四本の竿を掛けられる設計だった。兼人は「二本で足りる」と言ったが、蒼士は全部の金具を付けた。

「使わない部品はなくすから」

「誰が四本も使う」

「シーツと服を同時に干すとき」

母が再婚して一年。蒼士は一度も泊まっていない。兼人の息子とは年が離れていて、挨拶程度しか話さない。家族写真に入るつもりもなかった。けれど母がぎっくり腰になり、洗濯物を干す人手が必要だと聞いて、来てしまった。

水平器を載せると、台は少し右へ傾いていた。ベランダの床自体が排水口へ向かって下がっている。蒼士は脚の下に薄いゴム板を挟んだ。

「細かいな」

「倒れたら下の階に迷惑だから」

「お前のお母さんも、そこまで見ない」

「見ないから俺がやるんです」

兼人は少し笑い、ネジを締め直した。

完成後、二人で洗濯物を運んだ。母のシャツ、兼人の作業着、息子のサッカーソックス。蒼士のものはない。母のシャツの肩を伸ばし、兼人の作業着だけ間隔を広く取る。誰の服をどこへ干すか、いつの間にか二人とも迷わなくなっていた。四本目の竿だけが空いた。

兼人は室内へ戻り、押し入れから紺色のバスタオルを持ってきた。高校卒業まで蒼士が使っていたものだった。

「お母さんが捨てるなって」

「もう硬いでしょう」

「一回洗えば少し戻る」

兼人は四本目の竿に、その一枚だけを干した。端が風に煽られ、洗濯ばさみを追加する。蒼士も反対側を留めた。

夕方、タオルはまだ湿っていた。

「乾くまで置いていけ」

「明日仕事です」

「取り込んどく。次に来たら使え」

蒼士は返事をしなかった。帰り際、ベランダの窓を少しだけ開けておいた。部屋に風を通すためだ。

四本目の竿には、空きがまだ十分あった。