ポートフォリオの余白
デザイン研究会の机に、同じオレンジ色のポスターが三枚並んでいた。
鳥飼灯は、そのポスターを表紙にしたポートフォリオで広告代理店の内定を取った。香坂珠希は実家の印刷所へ戻る。六車遼平は福祉デザインを学ぶ大学院へ進む。
ポスターは、三人で作った学食の食品ロス削減広告だった。灯がコピーを書き、珠希が配色し、遼平が車椅子利用者にも読める配置に直した。
「会社から、原本を研修で使いたいって」
灯が切り出す。
「誰の原本?」と珠希。
「私の作品として提出したから」
「色、全部うちの印刷機で調整したんだけど」
「でも採用されたのは灯だよ」と遼平が言う。
慰めるような声が、かえって机を冷たくした。
珠希は内定を三社断った。父の入院で、町工場を閉められなくなったからだ。面接では家業を「地域文化を支える基盤」と説明したが、本音は借金だった。
遼平は大手メーカーの選考に落ちた。説明会で、色覚対応について質問しすぎたのが原因だと冗談にしている。
「大学院に行けば、また就活だよ」と灯。
「次は、採用されるためじゃなく、読めない人を減らすために作る」
「それ、私が採用されるために作ったみたいじゃん」
「違うの?」
代理店からの電話で、担当者は「学生らしくない完成度」と褒めた。その完成度が三人分だとは、最後まで聞かれなかった。
灯はポスターを裏返した。白い余白に、三人の鉛筆書きが残っている。〈文字を大きく〉〈オレンジは警告色に見える〉〈予算内で特色一色〉。完成品から消えた相談の跡だった。
「三枚あるなら、一枚ずつ持とう」
灯が言う。
「同じものを?」
「同じじゃないって分かったから」
珠希は裁断機を引き寄せ、ポスターを縦に三つへ切った。コピーだけの部分、色面だけの部分、余白だけの部分。
「これなら一人の作品って言える」
灯は言葉を、珠希は色を、遼平はほとんど白い端を受け取った。
三人が去ったあと、机には細い切れ端が一本残った。三つの役割が重なっていた中央線だけは、誰のポートフォリオにも入らなかった。