ロッカーの二本の鍵
牧野千景は、よく似た二本の鍵を持っていた。
一本は会社の更衣ロッカー。もう一本は、コスプレ衣装を入れた銀色のトランク。どちらも小さく、丸い頭に刻印がある。違いは、会社の鍵に「B17」、トランクの鍵に「月狼」と彫られていることだけだった。
前日の千景は銀の耳と尾をつけ、月狼の族長として撮影されていた。撤収を急ぎ、会社の鍵がついた輪まで衣装袋へ放り込んだらしい。
月曜の朝、千景はロッカーの前で、月狼の鍵を握っていた。
会社の鍵は前日のイベント会場で落としたらしい。予備鍵を借りるには、総務へ紛失届を出さなければならない。
「キーホルダーは何がついていましたか」
防災センターの女性に尋ねられ、千景は答えに詰まった。
銀の尻尾と、コスプレ名「CHIKA」を刻んだ札。平日の自分には似つかわしくない。
「白い毛の飾りと、アルファベットの札です」
「もしかして、これでしょうか」
女性が透明袋を出した。
白い尻尾の先に、B17の鍵が揺れていた。昨夜、イベント会場の清掃員が、同じビルの防災センターへ届けたのだという。このビルの上階は土日に撮影会場として貸し出されていた。
札の裏には、月狼族の紋章まで描いてある。
千景は受け取れずにいた。
「社員の落とし物として処理しますか。それともイベント参加者の落とし物として?」
女性は事務的に尋ねた。
社員番号と参加者名が同じ台帳に残る。二つの記録がつながれば、趣味が知られる。そう恐れていたのに、目の前の人はもう全部分かっていて、面白がる様子もなかった。
「両方、私です」
千景は社員証を出した。
「牧野千景で、参加者名はCHIKAです」
受領簿の氏名欄へ本名を書き、備考欄へイベント名も記した。女性は確認印を押し、ただ「次は大きな目印を。秘密にしたい鍵ほど、見分けやすく」と言った。
昼休み、千景は二本の鍵を机に並べた。
今まで色のない輪をつけ、どちらの鍵か分からなくしていた。文具店で買った青いタグへ「会社」、銀のタグへ「衣装」と書く。
最後に二つを同じキーリングへ通した。
歩くたび、B17と月狼が小さくぶつかり、澄んだ音を立てた。