一フレームでも止められる

《ラグ中に別人が倒してるだろ》

《都合よくボス戦だけ一FPSになるの草》

《瀬名暁人の強さ、回線込みの手品》

瀬名暁人は、通信会社の公開回線診断を画面へ固定した。遅延なし、欠損なし。今日は監査ドローンも同時配信している。

自動補正やフレーム補間は、疑惑を出した技術者本人が停止した。暁人は端末に触れず、送信設定の管理権限までその人物へ渡している。

「一フレームあれば足りるから、結果だけ見ると回線が遅く見えるんだよ」

第十八層の雷帝が、両手に雷球を生んだ。放たれれば一秒間に千回の攻撃判定が走る。通常映像でも追えない速度だ。

退避を促す警告が三度鳴ったが、暁人はカメラの前から動かない。むしろ全機材の時刻表示が見える位置へ立ち直した。

暁人は右手の人差し指を立てた。

雷が画面を白く塗る。

次のフレームで、彼の指先は雷帝の額に触れていた。

さらに次のフレーム。すべての雷が一本の細い糸へ圧縮され、暁人の指から雷帝の身体を貫いている。皇冠が砕け、巨体が膝をついた。配信は一度も止まっていない。

《フレーム欠落ゼロ》

《監査ドローン側も同じ三枚しか映ってない》

《一枚目構える、二枚目接触、三枚目討伐》

《ラグじゃなくて動作が撮影間隔より短いのか》

《秒間二十四万コマの高速度カメラも途中を拾えてないぞ》

暁人は指先についた煤を吹いた。

「別人が入る暇、あった?」

検証班が機材を増やすほど、空白は埋まらなかった。動体検知、魔力軌跡、空間転移。どれにも途中経過が存在しない。ただ開始点と終了点だけが連続した時刻で残っている。

《編集ならタイムコードが飛ぶ。飛んでない》

《転移なら座標警報が出る。出てない》

《本人が速すぎて、世界側の記録が追いついてない》

《回線を疑ってごめん。俺の目の帯域不足だった》

配信プラットフォームが急きょ、映像品質表示の横に注釈を追加した。

【回線品質:最高】

【被写体速度:計測不能】

同時視聴者数の桁が一つ増えた瞬間、コメント欄には同じ言葉だけが流れた。

《止まってたのは配信じゃない。俺たちの理解だ》