一日一枚の救難信号
森羅カエデは城壁が崩れる寸前、剣ではなく撮影ボタンを押した。
《スクリーンショット》
一日一枚だけ、登録済み緊急連絡先へ自動送信されます。
ログアウト不能になって四百日。外部通信はすべて遮断され、唯一残ったのがこの機能だった。だがゲーム画面を送っても、現実の家族には意味が分からない。最初の百枚は景色や仲間の顔ばかりだった。
今、城壁の下には白と黒の盾を持つ兵が並んでいる。カエデは仲間を指揮し、盾の色で巨大な文字を作らせた。
SOS
B3
124
地下三階、座標一二四。閉じ込められたプレイヤーの集合地点だ。
「敵が来る!」
撮影範囲へ魔獣が飛び込む。カエデは一度きりのボタンを押さず、剣で押し返した。今日の一枚を失敗できない。
アイテム説明の末尾には、今まで気づかなかった注記がある。
《送信先は、撮影者が最も帰りたい相手に自動設定されます》
登録した覚えはない。カエデが帰りたい相手は、事故の前に喧嘩した姉だった。四百日、一度も名前を呼べなかった姉。
魔獣の群れが途切れた。盾文字が整う。カエデは城壁の端へ立ち、自分も画面に入った。指で、幼い頃に姉と決めた合図を作る。親指を折った拳は「迎えに来て」の意味だ。
撮影。
その夜、敵軍は城を突破した。カエデたちは地下へ追い詰められ、最後の扉を支え続けた。翌日の撮影回数が回復する前に、天井から白い光が差す。
現実側の救助プログラムが、座標一二四へ接続したのだ。
光の中に姉の声が響く。
「見つけた。迎えに来たよ」
勝利表示より先に、スクリーンショットの送信履歴が開いた。四百枚すべてに、姉からの受信確認がついていた。返事が届かなかっただけで、ずっと見ていた。
姉は毎晩、画像の隅々まで拡大し、背景の星や建物から位置を割り出そうとしていた。楽しそうな集合写真の日も、負傷者を隠して笑った日も見抜いていた。最後の一枚で、ようやく妹が助けを求めたのだと分かった。
《緊急連絡先による接続座標の特定に成功しました》
《救難信号を受理》
《ログアウト不能者四百十二名を、撮影者が最も帰りたい場所へ転送します》