七つ目の靴音

蓬田征路は、民俗学より歩行データを信用する大学院生だった。怪異の証言も、足音の反響や距離感を測れば説明できると考えていた。

調査対象は「七歩駅」。廃線資料にも地形図にもないが、深夜の乗客が一駅だけ停車したと報告している。

昭和初期の女学生の日記に、禁忌が一行あった。

《七歩駅では足音を数えてはいけない。七つまで数えると、八つ目が数えた人を覚える》

征路は靴にセンサーを付け、スマートウォッチの録音を開始した。

午前零時過ぎ、乗っていた列車が暗いホームへ停車した。駅名標は「七歩」。降りると扉は閉まり、線路の先に消えた。

ホームは妙に短かった。出口まで七歩ほどに見える。征路は実験のため、あえて声に出した。

「一、二、三、四、五、六、七」

七で立ち止まった。

背後から、もう一歩だけ靴音がした。録音画面には、征路の波形とは別に、遅れて始まる細い波形が一本増えていた。

振り返っても誰もいない。出口の階段は消え、代わりに到着した電車の扉が開いた。征路は数えずに走り、車内へ飛び込んだ。

研究室へ戻り、データを確認した。センサーは七歩しか記録していない。録音には八つの足音があり、最後の一つだけ、征路が履いていない革靴の音だった。

それ以外に異常はなかった。

翌日、机で論文を書いていると、スマートウォッチが震えた。

《一緒に歩いている人がいます》

座っているのに歩数が一つ増えた。七秒後にもう一つ。七秒ごとに増え続ける。

時計を外して引き出しへ入れても、スマホの健康アプリは歩数を記録した。位置情報の青い点は研究室から動かないまま、同行者の歩数だけが伸びていく。

七歩たまるたび、床の後ろ側で革靴が一度鳴った。

征路は音を数えないよう、イヤホンで音楽を流した。すると画面に新しい通知が出た。

《同行者が目標の10,000歩を達成しました》

その下に、初めて名前が表示された。

《八つ目》

スマートウォッチの緊急検知が作動した。

「後ろの方が転倒しました。振り返って確認してください」

征路が動かずにいると、椅子の背へ、誰かの手の重さがゆっくりとかかった。