三つの影、二つの進路
三人で帰るとき、商店街の角で影が三方向へ分かれた。
一人は東京の大学へ進む。
一人は地元の病院へ就職する。
私はまだ決められずにいた。
「進路希望、今日まででしょ」
就職組が言った。
「先生に明日まで待ってもらった」
「昨日も聞いた」
上京組が笑う。
二人にははっきりした行き先がある。私は、地元を出たい気持ちと、家族を残したくない気持ちの間で止まっていた。
夕暮れの街は、どの道も同じオレンジ色に染めていた。
「こっち来ればいいじゃん」
上京組が東京のパンフレットを振る。
「地元も悪くないよ」
就職組が求人票を指す。
どちらも善意だった。二人の声が、自分の迷いを責める鐘のように聞こえた。
だから余計に苦しかった。
「二人はいいよね」
思わず言った。
空気が止まる。
「決められて」
上京組が眉を寄せた。
「決めたんだよ」
「簡単だったみたいに言わないで」
就職組も静かに続けた。
「私だって、本当は県外の学校へ行きたかった。でも家のこと考えて就職にした」
上京組は、奨学金の申請書を何度も書き直したと話した。親と毎晩喧嘩したことも。
私は二人の結果だけを見ていた。
長い影は、足元からは一つの線に見える。でも先へ行くほど、わずかな角度で大きく離れる。
「ごめん」
私が言うと、二人はすぐには許さなかった。
三人で黙って歩いた。
分かれ道へ着く。
いつもなら「また明日」と言って別れる場所だった。
「決められないなら、未定って書けば」
就職組が言った。
「怒られるよ」
「怒られればいい」
上京組も笑った。
「私たちに合わせて決めるよりまし」
その夜、進路希望の第一欄へ『未定』と書いた。
翌日、担任に呼び出され、長い面談になった。
一か月後、私は地元の大学を受けながら、交換留学制度を使う道を選んだ。
二人のどちらとも違う進路だった。
卒業式の帰り、同じ商店街を三人で歩いた。
春の夕暮れにも影は三つ伸びた。
進む方向は違っていた。
でも、分かれる前に同じ角を曲がった時間まで、別々になるわけではなかった。