三時のおやつ
三時のおやつに、眠っている子どもは一人もいなかった。
保育室の丸い机には、小さなカップとビスケットが並んでいた。壁時計は三時。保育士が配膳室から戻ると、窓際にいた幼児が消え、非常口がわずかに開いていた。
子どもたちは皆、動物柄のパジャマを着ていた。天井には星形の灯りがともり、窓は厚い遮光カーテンで覆われている。保育士は「おやつの時間だけは起こす決まりです」と説明した。
監視映像には、三時二分、帽子を深くかぶった人物が非常口へ入る姿が映っていた。誘拐を疑われた父親は、午後二時から四時まで会社の会議に出ていた。上司も同僚も証言し、会議の録画にも顔が残っている。
非常口のカード記録は、保育士のものだった。保育士は配膳室へ行く際、誤って扉に触れたのだと主張した。だがカードは扉の外側で使われていた。誰かに貸した可能性がある。
消えた子どもの枕元には、父親の上着から取れた銀色の糸が落ちていた。父親は前日に抱き上げた際のものだと言った。保育士は、迎えの時間を何度も確認する父親を不審に思いながら、会議中だという説明を信じていた。
刑事は机のカップへ触れた。中身は温かいミルクではなく、薄いスープだった。ビスケットの袋には「夜間補食」と印刷されている。壁に貼られた予定表も、昼寝ではなく「仮眠」「起床」「深夜補食」と並んでいた。
そこは一般の保育園ではなかった。夜勤の医療従事者や交通職員のため、夕方から翌朝まで子どもを預かる夜間保育室だった。
三時のおやつは午後三時ではなく、午前三時。パジャマも星の灯りも飾りではない。子どもたちは、深夜の決められた補食のため起こされていた。
父親の午後の会議はアリバイにならない。会社の入退館記録には、午前二時四十七分、彼が保育室近くの別棟へ入った履歴があった。
刑事が記録を示すと、父親は「昼間は会議だった」と繰り返した。
誰も昼間の話などしていない。三時のおやつは、眠るべき夜にだけ開く、連れ去りのための十五分だった。