三段目のタオル

姉は、娘のタオルを棚の三段目へ置いてほしいと言った。

「一段目じゃ届かないし、二段目は石けんが垂れるから」

鹿島瑞帆は、洗面所の棚を見上げた。三段目には大人用のバスタオルが詰め込まれている。姪の小さなタオルは、これまで最上段の籠に入っていた。姉が毎朝取ってやっていたからだ。

「病院から帰ってから変えればいいよ」

瑞帆が言うと、姉は首を振った。明日の入院は、帰るためのものではない。医師は家族だけにそう説明した。

姪は保育園にいる。迎えまで二時間。姉が眠っている間に、瑞帆は洗濯機を回した。黄色いひよこ柄、苺柄、名前の刺繍がほどけかけた白いタオル。三枚が水の中で回った。

洗濯機の蓋には、姪が貼った動物シールが並んでいた。象だけ上下が逆だ。瑞帆が直そうとすると、姉が居間から「それは本人の向き」と言った。棚の高さも、タオルの柄も、姉は娘が自分で選べるように少しずつ変えているのだと、そのとき気づいた。

脱水が終わると、天気予報に反して雨が降り出した。瑞帆は浴室乾燥を使った。姉なら電気代が高いと言うだろうが、今日は言わなかった。

乾くまでの四十分、瑞帆は三段目を空けた。大人用のタオルを最上段へ移し、石けんの詰め替え袋を二段目の右へ寄せる。棚板には丸い水染みがあった。濡れた布で拭くと、木目が少し濃くなった。

三段目の奥から、小さな踏み台の説明書が出てきた。姉は踏み台を買う代わりに、棚のほうを下げたのだ。瑞帆は説明書を捨てず、最上段の籠の下へ差し込んだ。

姉は居間から一度だけ、「名前、見えるようにね」と声をかけた。

乾いた小さなタオルは、まだ熱を持っていた。瑞帆は半分に折り、さらに三つ折りにした。ひよこの顔が隠れたので、やり直す。苺も白い刺繍も、正面から見える向きにそろえた。

三段目は姪の肩ほどの高さだ。試しにしゃがみ、子どもの目線から確かめる。奥へ押し込みすぎれば届かない。棚の縁から指二本ぶん手前に置く。

最後の白いタオルを重ねると、三枚の名前が縦に並んだ。

瑞帆は棚から手を離し、どれも崩れないことを見届けた。