三番窓口の来賓

県庁の三番窓口に、風呂敷包みを抱えた女性が並んでいた。神代珠緒。地味な紺のジャケットで、番号札を何度も確かめている。

彼女は、豪雨で被災した商店向け支援制度について質問した。

女性は開庁時刻から一般の列に並び、途中で秘書らしい人物から三度かかった電話も切っていた。前にいた男性がコピー代を持っていないと知ると、自分の小銭を渡した。係長はその様子を「親切の押し売り」と呼び、被災写真が一枚足りない申請書を相談もなく返却した。女性は怒る代わりに、返された理由と時刻を風呂敷の上で記録した。

待合椅子には英語とやさしい日本語の案内がなく、外国人夫婦が同じ列を三度並び直していた。女性は自分の順番を譲り、係長の説明を紙へ図にして渡した。

係長は申請書を指で弾いた。

「読めば分かります。分からないなら行政書士に頼んでください」

「この欄は、仮店舗で営業中の場合どう書きますか」

「例外ばかり言われてもね。制度は全員に親切にはできません」

女性は隣の高齢者が困っているのを見て、記入例の矛盾も尋ねた。係長は列の後ろを示した。

「相談会ではありません。あなた一人のせいで皆さんが待っている」

私は臨時職員だった。資料の新旧版が混ざっていることに気づき、こっそり最新の記入例を渡した。女性は受け取り、私の名札を手帳に写した。

「現場では、どこが一番分かりにくいですか」

「仮店舗の扱いと、オンライン申請の添付です」

係長が机を叩いた。

「職員が勝手に取材に答えるな。そちらの方も、用が済んだなら帰ってください」

女性は風呂敷を結び直し、廊下の奥へ歩いた。係長は「暇な人だ」と呟いた。

五分後、庁内放送が鳴った。全課長は大会議室へ集合。新知事による就任初日の窓口視察報告を行うという。

秘書課の職員たちが三番窓口へ駆けてきた。先頭の秘書が、廊下の女性へ深く頭を下げる。

「神代知事、記者会見の準備が整いました」

神代は私から受け取った記入例を掲げた。

「会見の最初の議題は、この窓口を誰のためのものに戻すかです」