三頭目が餌を食べない
獣軍参謀ガシュナを「檻の前で観察するだけ」と追放した翌朝、王立飛竜隊は三頭の飛竜を同じ広場へ放した。
一頭目は肉へ飛びついた。二頭目も食べた。
三頭目は餌を見ず、一頭目の喉へ噛みついた。
鎖が絡み、二頭目まで暴れ、騎手たちは鞍へ近づけない。出撃鐘が鳴っても飛竜は仲間同士で翼を打ち合い、ついには厩舎の屋根を半分焼いた。
隊長トルバクは「餌が悪い」と肉屋を殴ったが、肉は昨日までと同じだった。
違ったのは、放す順番だ。
三頭目の飛竜は群れで最上位だった。先に下位の二頭が餌へ口を付ければ、自分の地位を奪う挑戦と受け取る。ガシュナは毎朝、爪痕、眠る位置、翼の傷を見て順位を確かめ、上位から一頭ずつ食べさせていた。
彼女の記録札には名前の横に小さな丸が並んでいたが、隊長は「子どもの遊び」と捨てていた。
飛竜隊は国境の偵察任務へ出られず、地上の騎兵を代わりに送った。到着は半日遅れ、その間に密輸団は峠を越えた。暴れた三頭を別々の檻へ戻すにも、最上位の飛竜が入口を塞いで誰も近づけない。
騎手たちは、ガシュナが毎朝最初に撫でる飛竜を気まぐれで選んでいたのではないと知った。最初の一頭が落ち着けば群れ全体が静まる。彼女は命令を与えていたのではなく、群れの中ですでに存在する命令を借りていたのだ。
その頃ガシュナは辺境牧場で、村を荒らしていた岩角鹿の群れを柵へ誘導していた。
「先頭の雌を追わないで。道を開ければ、群れは全てついて来ます」
猟師たちが槍を下げると、岩角鹿は一頭も傷つかず谷の保護区へ移った。作物も踏まれず、子鹿も残らない。牧場長リシュマは、ガシュナへ獣害参謀の札を渡した。
「獣を従わせたのではない。獣が従う順番を読んだのね」
昼過ぎ、飛竜隊から火傷した使者が来た。三頭を鎮めれば追放を取り消し、専用研究室も与えるという。
ガシュナは捨てられた記録札の写しを封筒へ入れた。
「飛竜隊との顧問契約は、昨日の追放命令で終了しています」