丸くならないたこ焼き
霧島妙と魚住灯里は、たこ焼き器を買ってから半年、一度もたこ焼きを作っていなかった。
妙の部屋へ遊びに来るたび、箱だけが棚の上にある。
「今日こそ使う?」
「材料ある?」
「ない」
そこで会話が終わっていた。
ある日、灯里が蛸と粉を買ってきた。
「逃げ道を塞いだ」
「紅生姜は?」
「忘れた」
「青葱」
「ない」
「逃げ道、広いね」
冷蔵庫にあったキャベツとチーズを刻み、たこ焼きらしきものを作ることにした。
鉄板を温め、生地を流す。
穴からあふれ、境目が見えなくなった。
「動画ではもっと丁寧だった」
「動画の人、私たちより人生うまそう」
蛸を入れ、キャベツを散らし、竹串で返す。
一個目は半月、二個目は破れ、三個目は隣とつながった。
「双子」
「切り離す?」
「仲良くさせとこう」
焼けるのを待ちながら、二人は床へ座った。
話したのは、灯里が最近覚えた肩こりの体操、妙の上司が毎朝違う健康茶を飲むこと、共通の友人が送ってきた赤ん坊の写真が全部同じ角度なこと。
「かわいいけど、十枚は見分けつかない」
「本人には全部違う」
「私たちのたこ焼きも全部違う」
「かわいい?」
「そこまでは言ってない」
最初の皿を食べる。
外側は柔らかく、中は熱すぎた。チーズが伸び、蛸は一部に偏っている。
「これ、蛸なし」
「当たり外れ方式」
「外れでは?」
「キャベツ焼きとして当たり」
妙はこのところ、休日にも仕事の連絡を気にしていた。
携帯が一度震えたが、手は生地と油で汚れている。
「見なくていい?」
灯里が訊く。
「丸くする方が先」
妙は竹串を握り直した。
四回目の列で、ようやく一つだけきれいな球になった。
二人は無言で見つめ、写真を撮らず、半分に割った。
夜が深くなるころ、皿には丸いものと平たいものが同じ数だけ並んだ。
ソースと鰹節をかけると、湯気の中で甘く香ばしい匂いが立つ。
「次は紅生姜買おう」
「次もやるんだ」
「箱へ戻すより早い」
洗い物は水につけたまま、二人はソファへ倒れた。
部屋にはソースと油、焼けたチーズの匂いが残り、指先は鉄板の熱をまだ覚えている。
丸くならなかった夜は、話の角だけをゆっくり落としてくれた。