主電源を落としただけ
《保守カメラの誤公開? 画質が業務用だ》
《小日向鈴音は見習い電工。雷帝鬼に近づけるわけない》
《停電させたら避難エレベーターまで止まるぞ》
落雷で制御盤が再起動し、非公開の保守映像が配信サイトへ流れた。
小日向鈴音はその事実を知らず、火花を散らす第九変電層で主幹盤を開いていた。中央には《雷帝鬼ヴォルト》が立ち、都市から吸い上げた電力を角へ溜めている。避難エレベーター七基は過負荷で停止し、三百人が地下に残されていた。
地上では病院の手術室と信号網が非常電源へ切り替わり、これ以上の負荷変動に耐えられない。管理員は都市全体を落とす最終遮断を求めたが、それをすれば地下の換気も止まる。鈴音は配線図の契約番号を一本ずつ照合した。
討伐隊の攻撃は、雷帝鬼へ追加の電気として吸収されるだけだった。
《供給電力、毎秒二ギガワット》
《角の蓄電量は都市一日分》
《主電源を切っても、あの蓄電で一時間は動く》
鈴音は焦げた配線を一本見て、首を横に振った。
「これは蓄電じゃありません。無断使用です」
絶縁手袋で黒いレバーを握り、一度だけ下ろした。
都市の灯りは消えなかった。
消えたのは雷帝鬼だけだった。角の光も、巨体も、床へ落ちる前に細かな火花となって制御盤へ吸い戻される。直後、七基のエレベーターが一斉に上昇を始めた。
《なぜ街は停電してない?》
《電力会社のログ:主幹ではなく「盗電経路」だけ遮断》
《技能《不正遮断》は契約外のエネルギー使用を強制停止》
《ボスの肉体まで盗電で構成されてたのか!》
鈴音は切れたヒューズを交換しながら、保守マイクへ報告した。
「原因除去。復旧確認。請求先は迷宮管理局でお願いします」
《災害級を原因扱い》
《見習いじゃなく電力秩序の番人》
《討伐報酬より電気代の請求が怖い》
地上では病院も信号も一度も暗くならず、七基のエレベーターから三百人が順に降りた。鈴音を見習いと呼んだ監督だけが、焦げた資格札を握って立ち尽くす。
《都市送電網の瞬断、〇・〇秒》
《救出者三百名、負傷なし》
鈴音は昇格祝いより、無断使用分の請求書へ正しい桁数を記入した。
電力会社の公式検証が配信上部へ固定される。
【違法受電二・一ギガワットを単独遮断。設備損傷ゼロ】
その瞬間、小日向鈴音の資格表示から「見習い」の二文字が消えた。