九十九点のベル
芽衣は語学アプリで九十九点を取ると、失敗した気持ちになった。
友人が毎週、満点の画面をグループチャットへ送るからだ。芽衣も最初は一緒に勉強するのが楽しかった。やがて点数の低い日は報告せず、満点になるまで同じ問題を解き直すようになった。発音判定に首を振られるたび、夜が短くなる。
連続学習は百八十六日。画面の炎の印は、休まなかった証明であり、休めなくなった理由でもあった。
その晩、最後の問題で芽衣は前置詞を一つ間違えた。結果は九十九点。時計は二十三時四十七分を示している。あと十三分あれば、もう一度できる。
再挑戦を押す前に、隣室から洗濯機の終了音が聞こえた。朝から入れたままだったシーツを思い出す。湿ったままの布と、燃えている小さな炎を見比べる。
最近は、電車でも昼休みでも問題を解いた。誰かより多く学びたいのではなく、炎を消したくない一心だった。聞き取れなかった音声を何度も再生し、眠る前には友人の学習時間を確認する。百八十六日分の努力が、たった一日の休みで無かったことになるように思えた。けれど実際には、覚えた単語も、読めるようになった短い記事も、日付が変わって消えるものではない。
芽衣はアプリの設定を開き、芽衣はアプリの設定を開き、「連続記録を守りましょう」という通知を切った。そして結果画面を閉じた。
九十九点のまま終えるのは、途中で席を立つようで落ち着かない。それでも洗濯機からシーツを出し、ベランダの室内干しへ広げた。柔軟剤の匂いが、深夜の冷たい空気に混ざる。
二十三時五十九分、スマートフォンが静かなままなのを確認した。アプリを開けば間に合う。芽衣は開かず、シーツのしわを一つ伸ばした。
日付が変わる。炎の印は翌朝には消えるだろう。友人の満点は友人の画面に残る。
芽衣は灯りを消し、まだ湿ったシーツの下をくぐって寝室へ戻った。九十九点は百点にならなかったが、その夜の終わりまで取り上げることは、もうしなかった。