乾くほど潤う一滴
砂都の王宮では、化粧が昼まで持たなかった。
乾いた風が吹くと頬の白粉はひび割れ、笑うたび細い線となって剥がれる。王弟の婚礼を前に、調香師たちは油を増やした。だが今度は砂が顔へ貼りつき、花嫁は鏡を投げた。
石鹸工房の搾りかす係ネリスは、前世で化粧品処方を学んでいた。彼女は油を足さず、石鹸を作るとき底に残る透明で甘い液を集めた。水分を抱え込むグリセリンだ。
「廃液を花嫁の顔へ塗るつもり?」
王宮調香師は鼻をつまんだ。ネリスは同じ乳液を二皿に分け、片方へ透明液をわずかに加えた。薄い革へ塗り、砂風を送る魔道扇の前へ置く。
一刻後、従来乳液の革は端から反り、表面に白い亀裂が走った。ネリスの革は曲げても柔らかく、粉を重ねても落ちない。量りに載せると、水分の減り方は従来品の半分だった。
花嫁は自分の左右の手で試した。右手の従来品は十分で粉っぽくなり、左手は鐘が鳴っても滑らかだった。香りは変わらず、油のような重さもない。
調香師は、湿気を呼びすぎればべたつくと叫んだ。ネリスは砂時計を返し、透明液の量が異なる五枚の革を並べた。多すぎる二枚は確かにべたつき、最少の二枚は乾いた。中央の一枚だけが、砂を吹きつけても払えば落ちた。彼女は既に最適な一滴を選んでいた。
婚礼当日、花嫁は三時間の砂上行列を笑顔で進んだ。宮殿へ戻っても頬に亀裂は一本もなく、化粧直しの乳液は未開封のままだった。
行列に同行した侍女二十人も同じ乳液を使い、途中で粉を足した者はゼロ。従来は一人につき三度、合計六十回も馬車を止めていたが、その日は一度も止まらなかった。予定より半刻早く到着し、沿道の民は花嫁の笑顔を最後まで見られた。
調香師は廃液など王家の品ではないと呟いた。花嫁は滑らかな頬のまま振り返り、「捨てていたものに負けたのは、あなたの油よ」と告げる。王弟は、投げ割った鏡の代金より安い製造費を見て笑い、ネリスへ工房印を渡した。
「砂都用乳液を二千瓶。次の王室調香師は君だ」