乾燥機の百円玉

瑞穂がコインランドリーに着いたとき、雨はさっきより強くなっていた。

洗濯物は家の洗濯機で回した。けれど部屋干しでは、明日の仕事で着るブラウスが乾かない。浴室乾燥は電気代が気になる。そこで濡れた服を大きな袋に詰め、徒歩五分の乾燥機まで運んできた。

給料日まで三日。財布には五百円玉が一枚と百円玉が二枚。乾燥機は十分百円。二十分回せば安心だが、百円を一枚残しておきたい。理由はない。ただ、小銭がゼロになるのが怖かった。

瑞穂は百円玉を一枚入れた。

ドラムが回り始める。店内の長椅子に座り、濡れた傘を足元に置いた。蛍光灯は白く、壁の時計の秒針だけが妙に大きい。向かいの大型乾燥機では、誰かの赤い毛布がゆっくり持ち上がっては落ちている。

スマホを開くと、動画アプリのおすすめに「休日の丁寧な暮らし」が並んだ。白い部屋、同じ色のハンガー、香りのよい柔軟剤。瑞穂はすぐ閉じた。いま見たいのは、乾くかどうかだけだった。

十分後、ブラウスの袖口はまだ湿っていた。

残った百円玉を指でなぞる。家まで持ち帰り、ドライヤーを当てれば乾くかもしれない。暖房の風に吊るしてもいい。けれど、そのために夜の二十分を使うことになる。

瑞穂は二枚目を入れた。

またドラムが回る。財布の小銭入れは空になった。胸のあたりが一瞬ざわついたが、長椅子に深く座ると、雨音と機械音が混ざって眠くなった。

終了後、服は温かく、ブラウスの袖口も乾いていた。大きな袋にたたまず詰める。帰ったらハンガーにかければ、しわもたぶん伸びる。

店を出ると、雨はまだ降っている。瑞穂は温かい袋を胸に抱えた。

百円玉を残すより、明日の朝に乾いた服があるほうが、今夜の自分には必要だった。財布が軽いことを、失敗と呼ばないで帰ることにした。

家に戻ると、ブラウスをハンガーにかけ、ほかの服は袋のまま床へ置いた。全部をきれいにたたむ元気までは、乾燥機から買っていない。

財布には五百円玉が残っている。崩せばまた百円玉になる。瑞穂は当然のことに気づいて、少し笑った。小銭入れの空白は、明日の危機ではなかった。

雨粒のついた窓のそばで、温かいブラウスだけが静かに揺れていた。