予備のブースに灯りを

コワーキングスペースの防音ブース三番に、二つの予約が重なっていた。

十五時から私は転職面接。もう一件は「梧桐出版・採用面談」。運営スタッフの門脇さんは、隣のブースを用意すると言ったが、そこは照明が故障中だった。

梧桐出版は、私が新卒で落ちた出版社だ。予約名義の編集者、加賀見遼はまだ来ていない。スペースにいたのは門脇さん、同僚の小田巻灯子、そして私。誰が二重予約を仕組んだのかと考えながら荷物を開くと、三つの違和感があった。

三番ブースのカメラ位置が、背の低い私に合わせて下げてある。机には、私が社内コンペで没にされた企画書のコピー。そして梧桐出版の予約メールは、灯子の個人アドレスにも転送されていた。

「灯子、あなたが二件とも取ったの?」

彼女は困ったように眼鏡を押し上げた。

私は今の会社で編集補助をしている。自分の企画が通らず、別業界へ転職しようとしていた。灯子はそれを止めなかったが、没企画を梧桐出版の加賀見さんに見せていた。加賀見さんは内容を気に入り、企画採用を前提に話したいと言ったという。

けれど私は、過去に落とされた会社からの連絡なら意地を張って断る。そこで灯子は、私の転職面接と同じブースを出版社名で予約した。最初の面接が終わったあと、偶然を装って加賀見さんと引き合わせるつもりだった。

「勝手に企画書を送ってごめん。でも、転職したい理由が編集を嫌いになったからじゃないって知ってたから」

カメラを下げたのは門脇さん。照明の壊れた隣室を「予備」として空けてくれたのも彼だった。

そこへ加賀見さんが到着した。企画書の表紙を見て、私は逃げたい気持ちと、続きを話したい気持ちの間で立ち止まった。

「面接が先ですよね」と彼は言った。

「終わるまで、外で待ちます。話を聞くかどうかは、そのあと決めてください」

私はブース三番に入り、扉を閉めた。机の端に灯子が置いた小さなチョコがある。包装には油性ペンで「どっちを選んでも味方」と書かれていた。

ひと口食べてカメラを見上げる。

「では、面接を始めてください」