二人目の妻が持参した証書
香辛料商ヴァランは半年ぶりに帰るなり、妻ティサの店へ見知らぬ女を連れてきた。
「紹介しよう。サフィナ、俺の新しい妻だ。おまえとはもう終わっている」
客の前で、彼は倉庫の譲渡証を卓上へ置いた。半年のあいだ、ティサは一人で仕入れ先を守り、嵐で沈んだ荷の弁償まで済ませていた。ヴァランから届いたのは、商談が忙しいという短い手紙だけ。それなのに彼は、増えた在庫を見回して「留守番にしては上出来だ」と笑った。ティサが留守を守って増やした在庫も店も、自分の名義へ移せという。
「離縁届は届いていません」
「旅先で手続きした。田舎者のおまえが知らないだけだ」
サフィナが宝石の指輪を見せつけた。その石は、ティサが結婚十年目の仕入れ資金として隠していた金貨で買われたものだった。ヴァランは問いただされる前に、「夫の金をどう使おうと自由だ」と言い放った。
「私たちは三か月前、港都の大神殿で正式に結婚したの。早く署名なさい」
ティサは譲渡証ではなく、サフィナが誇らしげに持参した結婚証書を受け取った。大神殿の文書には偽造防止のため、既存婚姻を照会する魔法印がある。証書の下端には小さく《先行婚姻あり》と赤く浮かんでいた。
「これは飾りだ」とヴァランが奪おうとする。
そこへ、店で取引を待っていた巡回書記官が立ち上がった。彼は証書を光へ透かした。紙の中には、申請時の宣誓文が保存されている。
ヴァランの声が店内へ響いた。
『前妻ティサは病死した。相続財産である店と倉庫は、結婚後にサフィナへ贈る』
サフィナの声も続く。
『生きていると面倒ね。本当に確認されないの?』
『金を渡したから大丈夫だ。ティサには離縁済みだと押し切る』
二人は割引を受けるため、音声保存付きの即日婚姻を選んでいた。署名も指紋も、本人たちのものだ。
ティサは一言も責めなかった。譲渡証を二つに裂き、店の帳簿を自分の胸へ戻す。ヴァランが出口へ走ると、大神殿の魔法印が扉を封じた。
巡回書記官は腰の筒から公文書を抜き、赤い紐を解いた。
「重婚、虚偽死亡申告および財産詐取未遂により、ヴァランとサフィナへの逮捕命令を読み上げる」