仮面の下を求めない

オフィーリアは香水の強い場所に長くいられない。

頭痛が始まると視界が白くなり、吐き気で立てなくなる。社交界では「繊細ぶった田舎娘」と笑われるため、誰にも言わず耐えてきた。

ダリウス公爵だけは、初めて会った晩に気づいた。

彼女が扇を鼻元へ上げた回数を数え、次の招待状には「香油の使用を控えること」と一行添えた。抗議した侯爵夫人には、入場許可を出さなかった。

今夜は王家主催の仮面舞踏会。さすがに公爵の命令は届かず、広間には薔薇と麝香が渦巻いていた。

オフィーリアは銀の仮面の下で息を浅くする。婚約発表までは残らなければ。そう思ったとき、肩に冷たい空気が触れた。

ダリウスが窓を開けていた。

「冬ですよ」と侍従が青ざめる。

「知っている」

「陛下が風をお嫌いです」

「彼女は香水を嫌う」

陛下と婚約者を同列にすら置かない言い方に、周囲が凍りつく。けれど彼はオフィーリアへ外套を掛けなかった。以前、重い衣服は頭痛を悪化させると彼女が一度だけ言ったからだ。代わりに出口までの人垣を、無言の視線だけで割った。

そのとき国王が杯を掲げた。

「待て、公爵。婚約者の顔を国民に示すのが先だ。仮面を外させよ」

大勢が期待に満ちて彼女を見た。仮面の下には、幼いころの火傷痕がある。公爵夫人にふさわしくないと噂される顔だ。

オフィーリアの指が留め紐へ伸びる。

ダリウスはその手を止めなかった。代わりに国王の前へ進み出る。

「外すかどうかは、彼女が決めます」

「余の命令でもか」

「彼女の顔は王領ではありません」

不敬なほど平坦な声だった。近衛がざわめく。

「婚約発表も同じです」とダリウスは続けた。「今夜、彼女が帰るなら延期する。二度と望まないなら破棄する。私の希望は、彼女の拒否権を奪う理由にならない」

彼は出口を指し示し、オフィーリアだけに問う。

「ここに残るか?」

彼女は窓から入る冷気を吸い込み、頭痛の薄れた目で彼を見た。

「残ります。でも、仮面は外しません」

ダリウスは国王へ一礼した。

「婚約者の回答です。以後、仮面について尋ねる者は退場させます」