仮面を外さない夜
ユディトは左頬の傷を隠すためではなく、見世物にされるのが嫌で仮面を着けていた。
王宮の仮面夜会では、真夜中に全員が顔を晒す決まりがある。
騎士団長レオンハルトは、彼女の仮面だけ留め紐を柔らかな布へ替えさせた。硬い金具で耳が痛くなると、以前一度こぼしたからだ。
「きつくないか」
「大丈夫です」
彼は頷く。周囲の貴族には挨拶すら返さない無口な団長が、彼女の耳の赤みだけは確かめる。
真夜中の鐘が近づくと、侍女長がユディトへ手を伸ばした。
「団長夫人候補は中央で仮面を外します」
ユディトは身を引く。
「外しません」
「傷を恥じる必要はありません。勇気を示すのです」
「恥じてはいません。見せたくないだけです」
侍女長はため息をつく。
「皆が待っています。団長閣下も、素顔をご覧になりたいでしょう」
レオンハルトが一歩進む。
「見たい」
ユディトの胸が固くなる。
彼は続けた。
「だが、外させない」
鐘が鳴り、広間中の仮面が外れていく。侍女長は王妃の命令だと主張した。
「一人だけ残せば、何を隠しているかと噂になります」
レオンハルトは自分の仮面も外さず、ユディトの前に立った。庇うのではなく、手を伸ばす者だけを止める位置だった。
「噂させろ」
王妃が壇上から言う。
「団長、形式を守りなさい。彼女はあなたのものになるのでしょう」
「まだ違う」
「では何者です」
レオンハルトはユディトへ視線を落とす。
「何と呼ばれたい」
「今夜は、ただの招待客で」
「聞いたな」
周囲が素顔を晒す中、二人の仮面だけが残った。レオンハルトは自分だけ外して安全を示すこともできたが、ユディトを一人にしないため同じ選択をした。誰に説明するでもなく、ただ隣へ立つ。
彼は仮面を外す合図の銀鈴を取り上げ、鳴らさず卓へ置いた。
「ユディトは招待客だ。仮面も、顔も、見せる相手も本人が決める。私の希望を許可にすり替えるな」