仮面を外さない祝宴
収穫祭の仮面舞踏会で、リノアは銀の半面を着けていた。
頬の痣を隠したいのではない。大勢に顔を見られると、昔の見世物小屋を思い出すからだ。
皇帝ハルヴェインは、彼女の仮面だけ留め具を布製に替えさせた。金属がこめかみに当たると痛むことを覚えていた。
「きつくないか」
「大丈夫です」
「大丈夫ではなく、楽か」
問い直され、リノアは少し笑う。
「楽です」
恐怖政治で知られる皇帝が、彼女の返事だけは曖昧なまま通さない。
真夜中、司会者が叫んだ。
「鐘とともに全員、仮面を外してください。皇帝陛下が未来の皇妃を選ばれます!」
仮面へ手を伸ばす者たちの中で、リノアは動かなかった。
司会者が近づく。
「お外しください」
「外しません」
「陛下に素顔を示す栄誉です」
「陛下は知っています。それ以外の人に見せたくありません」
周囲がざわつく。司会者は仮面の紐へ手をかけた。
その腕を、ハルヴェインが扇だけで止めた。骨が折れる寸前の力に、男が悲鳴をこらえる。
「触れるな」
「規則でございます」
「今、廃止した」
皇帝はリノアへ向き直る。
「残るか」
「音楽は聴きたいです」
「なら仮面のままいろ」
貴族たちは不満を口にした。
「皇妃候補だけ顔を隠すのは不公平です」
ハルヴェインは玉座前に用意された皇妃冠を箱へ戻す。
「候補ではない。選定も行わない」
「陛下が最も寵愛する方なのに?」
「だから何だ」
鐘が鳴っても、リノアの仮面は外れなかった。
皇帝は全員へ告げた。
照明係が仮面へ光を集めようとすると、ハルヴェインは灯りの角度も変えさせた。銀面が反射して人目を引くのを、リノアが嫌がると知っていたからだ。
「暗すぎませんか」
「このくらいが好きです」
皇帝はそれ以上明るくしない。見守ることと、皆に見せることを混同せず、彼女が選んだ薄明かりの中へ自分も立った。
リノアが仮面の下で息を整える間、皇帝は返事を急かさず、次の曲が始まるまで黙って待った。
「彼女の顔を見る権利は、余の寵愛からも生じない。リノアが『見せない』と言った範囲を、誰一人越えるな」