低信用者からの着信
深町理久は目覚めると、枕元の端末で夜間着信を確認する。信用点数六百未満の発信者は、自動で呼び出し音を消される。勧誘も、金の無心も聞かずに済むため、設定は初期値のままだった。
その朝、遮断件数は十二件だった。
発信者は高校時代からの友人、和燈。点数三九七。会社を解雇されてから、家賃の遅延と求職面談の欠席で下がり続けていた。
最後のメッセージはなかった。
理久は通勤中に折り返した。呼び出し音の代わりに、警察の自動応答が流れた。
『契約者は午前四時二十八分、死亡が確認されました』
駅の階段で足が止まる。
昨夜、和燈から「今度、飯でも」と来ていた。理久は「いつでも電話しろ」と返した。その五時間後に十二回かけてきたのだ。
遮断された通話には、事故や犯罪の検証用として冒頭八秒だけ音声が残る。理久は一件目を再生した。
『理久、悪い。屋上にいるんだけど――』
そこで切れた。
二件目。
『やっぱり迷惑だよな。でも、下を見ると――』
三件目は風の音だけだった。
理久は通信会社へ、残りの音声を開示するよう申請した。
《低信用発信者の完全記録は保存対象外です》
「緊急の電話だった」
《発信者は緊急番号を利用していません》
和燈は緊急番号にもかけたのかもしれない。だが三九七点の通報がどの順番で扱われたか、理久には開示されなかった。
十二件目を再生する。
『お前だけは鳴ると思ってた』
八秒より早く、音声は終わった。
端末が、遮断機能の週次報告を表示する。
《今週、低信用接触を二十七分回避しました》
《健全な人間関係の維持を評価します》
理久の点数が八四四から八四六へ上がる。
彼は設定画面を開き、遮断基準を〇へ下げた。確認通知が出る。
《低信用者との接触により、あなたの信用点数が変動する場合があります》
承認する。
すぐに呼び出し音が鳴った。
画面には和燈の名前が表示されていた。死亡処理前に予約された自動発信だった。
理久は震える指で応答した。
『この電話は、発信者の信用点数が基準を下回ったため、内容を配信できません』
声はそれだけだった。
切断後、和燈の連絡先は《死亡済み低信用者》へ分類された。理久の画面には、二度とかかってこない相手からの着信許可だけが残った。