保存容器を一つだけ

日曜の午後六時五分、雨宮毬奈の台所には、空の保存容器が五つ並んでいた。

昨夜の自分が、洗って乾かし、蓋まで組み合わせておいたものだ。今日は午前中から鶏肉を焼き、にんじんを和え、きのこのスープを作る予定だった。平日の自分を助けるための作り置き。買い物も済ませてあり、冷蔵庫には材料がきれいに詰まっている。

ところが、毬奈は朝食のあとで眠り、夕方まで一度も起きなかった。起きた瞬間、五つの容器が待っていることを思い出した。休んだはずなのに、胸の中だけが走り始めた。

鶏肉の消費期限は今日。にんじんはまだ平気。きのこも明日なら使える。全部作るには二時間、洗い物までならもっとかかる。平日の自分を助けるために、日曜の自分をこれから働かせるのかと考えたら、包丁を握る手が止まった。

毬奈は鶏肉のパックを冷凍用の袋へ移し、油性ペンで日付を書いた。〈下味なし〉と書いたあと、その横に〈お願いします〉と付け足した。未来の自分への謝罪ではなく、依頼にしたかった。

卵を二個だけ茹でる。湯が沸くまでの間、冷めた総菜パンをかじった。スマートフォンには、料理アカウントから〈日曜二時間で十品〉という通知が来ていたが、横へ払った。

茹で上がった卵を水へ入れ、殻をむかずに保存容器一つへ置いた。残り四つは空のまま重ねる。冷蔵庫を開けると、一つだけ中身のある箱が、やけに頼もしく見えた。

五日分には足りない。明日の昼食すら完成していない。それでも月曜の朝、卵を一個持って出られる。

月曜から金曜まで、容器を一つずつ使う想像をしていたから、四つの空白が目についた。けれど水曜の自分が何を食べるかを、日曜の夜に全部決めなくてもいい。途中で総菜を買う日も、同僚と外へ出る日もある。予定通りではない平日にも、昼休みはちゃんと来る。

卵の殻には細いひびが一つ入っていた。毬奈はそれを明日の自分が先に食べる印と決め、蓋の上に小さく丸を書いた。

毬奈は空の容器を責めるのをやめ、棚へ戻した。助けられる未来は一日ぶんでいい。今日は一つだけ、蓋を閉めた。