偶数のない廊下
唐沢湊は一番扉を抜け、そのまま三番扉も通過した。二つ目のセンサーが鳴った瞬間、天井から緑の帯が降り、彼の首輪を照らす。
八代椿は壁を叩きながら、隠された二番扉を探していた。廊下に見える番号は一、三、五だけ。偶数は一つもない。
「なぜ勝ちになる?」
椿の声に、湊は表示された規則を指さした。
――最初に、偶数の番号付き扉を通過した者を勝者とする。
椿は「偶数番号の扉を通過しろ」と読んだ。だから二、四、六のどれかが隠れていると疑った。けれど文はそう書かれていない。
「『偶数の、番号付き扉』だ。番号の付いた扉を、偶数枚通ればいい」
湊は一番と三番、合計二枚を通った。番号そのものはどちらも奇数だが、通過した扉の数は偶数である。
「そんな区切り方が通るか!」
「偶数番号なら『偶数の番号が付いた扉』と書く。助詞を一つ省いたのは、短く見せるためじゃない。二通りに読ませるためだ」
このゲームの主催者は、存在しない扉を探して互いに疑う姿を撮りたかったのだろう。床には取り外した扉の跡らしい線があり、壁の一部だけ音が違う。すべて偽の手掛かりだった。椿はそれに誘導され、まだ一枚も通過していない。
一方、湊は規則が読み上げられなかったことを重く見た。音声なら「偶数番号の」と言い直さなければ意味が定まりやすい。文字だけで示したのは、係り先を曖昧にするためだ。
椿は文章の下へ句読点を足すように指を動かしたが、表示は変わらない。読点をどこへ置くかまで参加者へ委ねたことこそ、このラウンドの罠だった。
機械音声が判定を告げる。
〈番号付き扉、二枚の通過を確認。二は偶数。最先着者を勝者とする〉
椿は慌てて一番へ走った。今から二枚通っても、勝利条件の「最初に」は取り戻せない。
湊の首輪が外れた。
「偶数がなかったんじゃない」
彼は二枚の扉を振り返る。
「最初から、僕が作る数だったんだ」
緑の隔壁が閉じ、椿の前では存在しない二番を探す照明だけが点滅し続けた。