八時に閉じる幕

内装家の高砂谷は、自宅展示室を内側から施錠し、三人の関係者とオンライン打合せを始めた。午後八時、背後の電動カーテンが自動で閉じた直後、棚の青銅模型が落下し、高砂谷の頭を直撃した。参加者は事故の瞬間を見た。管理人が開けるまで扉も窓も閉じたままで、誰一人室内へ入っていない。

容疑者は舞台技師の糸魚川、共同経営者の城所、発注主の三枝木。全員が別の場所から映像を出し続けていた。高砂谷はその日、工事費の水増しを公表すると三人へ告げている。模型は朝から棚にあり、カーテンも毎日八時に閉じる設定だった。

展示室は、高砂谷が自ら設計した「人の手を使わない住宅」の見本だった。照明、空調、音楽、カーテンまで時刻表で動く。城所は自動化を事故の原因だと責め、三枝木は模型の固定が甘かっただけだと主張した。糸魚川は舞台設備なら安全装置を二重にする、と他人事のように語った。

現場で数える手掛かりは三つだけだった。

第一に、落ちた模型の台座から抜けた留め栓には、透明な糸が結ばれていた。

第二に、その糸の反対端は、カーテンの最後の走行金具へ一周だけ巻き付いていた。

第三に、カーテンの自動時刻は事件当日の午後、糸魚川の施工用端末から八時へ変更されていた。

城所は金具を指で追った。幕が閉じれば金具が糸を引き、栓だけを棚から抜く。高砂谷の椅子は模型の真下に固定されていた。

「犯人は八時に部屋へ入る必要がなかった」私は言った。糸魚川は打合せ前に透明糸で留め栓と走行金具をつなぎ、遠隔設定した時刻にカーテンを閉じさせた。金具が進む一動作で栓が抜け、模型が落ちる。糸と結び方が落下を事故から罠へ変え、端末記録が仕掛けた者を示す。高砂谷自身が内側から施錠したため密室は本物だった。殺人者の代わりに、毎晩の幕が予定どおり室内を横切っただけである。 自動化された家では、時刻表そのものが犯人の腕になり得る。 予定された日常動作は、誰にも疑われない時限装置になった。