出口からの未読
大学の都市伝説サークルが残した攻略メモには、戸隠返しトンネルの無料Wi-Fiについて一行だけ書かれている。
《差出人が「出口」のメッセージを開いてはいけない》
嘉瀬雄吾は二十五歳。友人二人と検証に入り、連絡にはトンネル内だけで繋がる匿名チャットを使った。
23:41 雄吾 入口通過
23:42 石灯籠 後ろ担当
23:42 紙魚 先頭
23:47 紙魚 分岐がある
23:47 雄吾 図面にはない
そこで先頭のライトが消えた。声をかけても返事がない。チャットには新しい参加者が現れた。
23:48 出口 紙魚はこっち
23:48 石灯籠 開くな
23:48 出口 位置を送る
雄吾は、迷った友人の座標だと思った。警告を知りながら、一度だけ通知を開いた。
本文はなかった。中央に《既読1》とだけ表示された。
直後、背後担当の叫び声がして通信が切れた。雄吾は一人で走った。何度曲がっても入口へ戻れず、最後にスマートフォンの画面を消したとき、目の前に街灯のある出口が現れた。
警察へ連絡すると、友人二人は入口の外で待っていた。彼らの話では、雄吾だけが柵を越えた直後に消えたという。三人のチャット履歴にも、雄吾の投稿はない。《出口》のアカウントも存在しなかった。
帰宅後、雄吾のメッセージアプリに異変が出た。届いた通知が、開く前からすべて既読になる。上司の連絡も、宅配の通知も、母親の短い挨拶も、画面を点けた時点で薄い色へ変わっていた。
翌晩、母親からメッセージが届いた。
《今、玄関に雄吾がいるけど、鍵なくしたの?》
すでに既読だった。
雄吾は自室にいた。返信しようとすると、入力欄に勝手に文字が現れた。
《開けて》
送信者は雄吾自身になっていた。
続いて、差出人《出口》から新着通知が届く。今度は本文がロック画面に表示された。
《既読をつけた方から外へ出られます》
その下で母親のメッセージが更新された。
《ドアの向こうのあなた、ずっと画面を見てる》
雄吾がまだ触れていない返信ボタンには、《既読2》と表示されていた。