出席に丸をつける

土曜の正午すぎ、伊都は郵便受けから厚い封筒を取り出した。

差出人はつかさ。先週、電話で結婚すると聞いていた。封筒の角には小さな金色の模様があり、伊都の部屋に届く請求書や通販の袋とは、手触りから違っていた。

テーブルの上には、食べ終えたカップスープと、午前中に買った日用品のレシート。招待状を置く場所がなく、伊都はレシートを重ねて端へ寄せた。

式は十一月。返信はがきには〈ご出席〉〈ご欠席〉が並んでいる。

伊都は黒いペンを持ったまま、しばらく動けなかった。

つかさに会いたい。ドレス姿も見たい。だが結婚式に出ると、毎回誰かに「次は伊都だね」と言われる。悪意のない言葉ほど、笑って受け取らなければならない。三十歳が近いこと、恋人がいないこと、仕事を続けるか迷っていることまで、一つの質問で照らされる気がする。

欠席に丸をつければ、その日は静かに過ごせる。祝儀も服も美容院も要らない。カレンダーを開くと、式の翌日は出勤だった。

伊都はペンを置き、冷蔵庫から水を出した。つかさとは専門学校のころ、昼休みにいつも階段でパンを食べた。伊都が人前で食べるのが苦手だと知って、理由を聞かず隣に座ってくれた。結婚式という場所が苦手でも、つかさを祝いたい気持ちは別にある。

もう一度、はがきを見る。

〈ご出席〉の「ご」を二本線で消し、出席に丸をつけた。字は少し震えた。

余白のメッセージ欄に、気の利いた文章を書こうとしてやめた。

〈呼んでくれてありがとう。会えるのを楽しみにしています〉

それだけ書く。

「次は」と言われたら、笑わなくてもいいかもしれない。席を外してもいい。つかさのために出席することと、会場にいる全員へ自分の人生を説明することは、同じではない。

伊都ははがきを封筒へ戻さず、そのまま玄関へ持っていった。近所のポストまで出るつもりだったが、部屋着の膝が伸びているのに気づく。

着替えるのはやめた。上から長いコートを羽織れば見えない。

十二時四十分、はがきは赤い投函口へ落ちた。帰りに何も買わず、伊都は空の手で部屋へ戻った。出席に丸をつけた自分を、勇敢だとも遅れているとも採点しないことにした。今日は、会いたい人に会うほうを選べた。それでいい。