勇気の絆創膏
薬局の自動販売機で、見慣れない絆創膏を買った。
貼っている間は恐怖を感じない。
剥がすと、抑えた恐怖が二倍になって戻る。
高校生は、発表の朝に使った。
教室の前へ立っても声が震えず、質問にも答えた。
放課後、絆創膏を剥がすと、帰り道の電車で急に息ができなくなった。
それでも発表は成功した。
次は部活動の試合。
その次は、好きな相手への告白。
怖い場面のたびに貼った。
告白はうまくいった。
恋人は「堂々としてた」と笑った。
高校生は、帰宅後一人で二倍の恐怖に耐えたことを話さなかった。
やがて、絆創膏なしでは小さなことまで怖くなった。
先生へ質問する。
親へ進路を話す。
恋人に不満を伝える。
恐怖が戻るのを知っているから、貼ったまま眠る日も増えた。
貼り続ければ戻らない。
そう思った。
しかし絆創膏の下の皮膚は赤く腫れ、感覚が鈍くなった。
恐怖だけでなく、危険を避ける感覚まで薄れた。
無理な運転をし、相手の嫌がる冗談を続け、怪我をしても平気だと言った。
恋人が絆創膏を剥がした。
恐怖が一気に戻り、高校生は床へ座り込んだ。
失うこと。
嫌われること。
自分が誰かを傷つけていたこと。
全部が二倍になって押し寄せた。
「怖いなら、言えばよかった」
恋人は隣へ座った。
「勇気がある人だと思われたかった」
「怖いのに来た人の方が、私は好き」
二人で夜明けまで待った。
恐怖はすぐ消えなかった。
それでも誰かがいると、二倍のままでも耐えられた。
進路面談の日、高校生は絆創膏を鞄へ入れたが、貼らなかった。
親へ、遠い町の学校へ行きたいと話す。
声は震え、途中で何度も言葉を失った。
親は反対した。
会話は成功しなかった。
それでも翌日、もう一度話した。
三度目に、条件付きで認められた。
絆創膏は最後まで使い切らず、薬局へ返しに行った。
自動販売機はなくなっていた。
代わりに普通の救急箱が置かれ、
「痛みを隠さず、傷を守ってください」
と書かれていた。
勇気は恐怖のない状態ではない。
怖さが戻ってくる場所に、誰かと一緒に立つことだった。