十分後に消える王冠

「あと三十二秒!」

 珠理は崩れる地下道を走った。腕の中では黄金の王冠が点滅し、秒数を刻んでいる。

【戦利品《亡国の王冠》】

【取得から十分で消滅する】

【消滅した戦利品は、取得地点へ還元される】

 三度の攻略で、王冠はいつも出口の直前に消えた。攻略班は移動速度を上げ、近道を掘り、今回はついに間に合うはずだった。誰も《還元》の意味を考えなかった。失うことを避けるのに必死で、消えた王冠がその後どこへ行くか確かめた者はいない。

 出口まで二十メートル。これを持ち帰れば、王都を覆う結界が解ける。そう攻略情報には書かれていた。

「ジュリ、投げろ! 俺が先に運ぶ!」

 前を走る槍使いが手を伸ばす。だが珠理は立ち止まり、来た道を振り返った。

 取得地点へ還元される。

 王冠を奪ったのは、地下最深部の石棺だった。中には頭のない王が眠り、倒した直後も剣を握らず、空の両手を頭上へ伸ばしていた。珠理には、あれが攻撃姿勢ではなく、奪われたものを探す仕草に見えた。戦利品という呼び名が、持ち主まで自分たちに変えるわけではない。

「出口は逆だぞ!」

 珠理は返事をせず、瓦礫を跳び越えて戻った。残り二十秒。背後で仲間が罵倒する。王冠を失えば一週間の攻略が無駄になる。

 十秒。石棺の間へ滑り込む。

 頭のない王は、倒したときと同じ姿で横たわっていた。珠理は王冠をかぶせようとしたが、物体を手放せない。まだ彼女の戦利品だからだ。

 三、二、一。

 王冠が光となって消える。

 次の瞬間、それは《取得地点》――石棺の胸元ではなく、王が最初に手放した頭上へ現れた。

 黄金の輪に触れた途端、王の首から光が伸び、失われた顔を形作る。王は静かに起き上がり、珠理へ剣ではなく鍵を差し出した。

「奪った場所と、返る場所は同じじゃなかったんだ」

 地下道の崩壊が止まり、王都へ続く本物の門が開く。

【戦利品《亡国の王冠》をロストしました】

【メインクエスト報酬獲得に失敗】

【隠しクエスト《返冠》達成】

【亡国は王を取り戻しました。プレイヤーによる王位継承を無効化します】