午前零時に吊るします
深夜の共同オフィスで、利用者五人が人狼ゲームの試作品を遊んでいた。
ゲームマスター役の管理人が電話で言う。
「はい、一人に決まりました。午前零時に吊るします。本人にはまだ知らせません」
電話を切ると、五人は沈黙した。
「今の、ゲームの話?」
管理人は笑うだけで受付へ戻った。
参加者の一人が時計を見る。
「零時まで四十分」
「誰を吊るすか決めたと言った」
「本人には知らせない」
「このゲーム、体験同意書が妙に長かった」
「誰も読まなかったの?」
「あなたも署名してたでしょう」
互いへの疑いが始まった。
「管理人と一番長く話していた人が対象かも」
「私は延長料金を聞いただけ」
「金銭トラブル」
「百円です」
「小さな揉め事ほど隠れた動機になる」
壁にはロープが掛かっている。天井にはフックもある。
「設備がそろいすぎている」
「ここ、撮影スタジオ兼用だから」
「そう思わせる偽装」
「何を見てもデスゲームへ戻すな」
一人が非常口へ向かうと、警報が鳴った。
「逃亡を検知した!」
管理人が受付から叫ぶ。
「そこ、夜間は施錠中です」
「閉じ込めたのか」
「反対側の出口を使ってください」
「逃げ道を一つだけ残すのが主催者の美学」
「消防法の美学です」
五人は管理人を取り囲んだ。
「誰を吊るすんです」
「もう決まっています」
「選考基準は?」
「一番目立つ人」
全員が服装を確認する。
赤い上着の女性が青ざめた。
「私?」
「本人には秘密と言ったのに」
「自分で気づいた場合は対象外?」
「処刑規則を交渉しないで」
午前零時。管理人は脚立へ上り、ロープをフックへ通した。
五人が止めようとした瞬間、彼は受付横の巨大な写真パネルを持ち上げた。
パネルには、赤い上着の女性がイベントで優勝した時の笑顔が印刷されている。
「今月の〈最も目立った利用者〉として、宣伝用写真を吊るします。本人へはサプライズで」
管理人は壁へパネルを掛けた。
女性は自分のパネルを見上げた。
「写真の修整だけは、本人へ知らせてほしかったです」
吊るされたのは、本人ではなく等身大の評判だった。