午後三時の空き枠
病院の予約センターで、鴨志田汀子は診察日を早めたいという電話を受けた。
男性は一週間前に手術を受け、次の外来は来月。紹介状の番号も手元にあり、午後三時のキャンセル枠が空いていることを汀子の画面は示していた。
普通なら、その枠へ入れて終わる。
「傷が少し痛むだけです」と男性は言った。けれど言葉の切れ目に、短く息を吸う音が何度も入った。汀子は日付を押さえる手を止めた。
「今、電話まで歩いてきましたか」
「隣の部屋からです。途中で息が……年ですから」
汀子は予約を取らず、トリアージ担当の看護師へつないだ。男性は「大げさにしないでくれ」と拒んだが、汀子は外来枠を失わないよう仮に確保し、そのまま看護師が話せる状態にした。予約だけ確定して電話を切れば、男性は午後三時まで自宅で待つかもしれない。
看護師が症状を確認し、救急受診を勧めた。家族が不在だったため、汀子は住所と連絡先を復唱し、救急側へ伝える内容に誤りがないか確かめた。診断をするのは汀子の仕事ではない。だが、「予約の電話」と決めつけないことはできる。
看護師へ転送したあとも、汀子は仮のキャンセル枠を消さなかった。救急受診にならなかった場合、最初から予約を取り直す負担を患者に戻さないためだ。結果が決まるまで席を一つ保ち、連絡が来た時点で開放した。空き枠は数字だが、その向こうには待っている人がいる。
一時間後、外来から連絡が来た。男性は病院へ到着し、すぐ処置を受けているという。午後三時のキャンセル枠は、別の患者に回された。
班長は汀子の記録を読み、「息の音まで聞くのか」と言った。
「声より先に、困っている音が入ることがあります」
汀子はそう答え、仮確保を解除した。
救急側への引き継ぎ内容も、予約記録とは別に保存した。時計は進んでいた。
待ち人数の表示は三人から四人へ増えていた。
次の電話は、薬の相談ではなく予約変更だと名乗った。汀子は用件を聞きながら、相手の呼吸にも耳を置いた。