友人欄のチェック

鷺宮汐音は、披露宴の席次表で自分の肩書きを見つめた。

「新婦友人」。その四文字の向かいに、榊田啓吾の名前がある。彼は三年前まで新婦・沙耶の夫だった。

沙耶と啓吾の離婚に裏切りはなかった。二人とも子どもを望まず、仕事の拠点だけが離れ、話し合って別れた。沙耶は今日、別の人と結婚した。それでも汐音は啓吾を好きと言えなかった。友人の元夫を好きになることは、期限の切れた関係を拾うようで、自分だけが友情の外へ出る気がした。

披露宴が終わり、会場のクロークはあと十分で閉まる。汐音は啓吾と二人、番号札を持って列に並んだ。送迎バスの最終便も同じ時刻だった。

沙耶は離婚後も二人を同じ飲み会へ呼び、啓吾の悪口を一度も言わなかった。それがかえって汐音を縛った。憎み合って別れてくれたなら、味方になることで線を引けたかもしれない。誰も悪くない別れのあとでは、誰かを選ぶことだけが悪意のように見えた。祝福の拍手の中で、自分だけが古い扉に手を掛けているようだった。

「半年、連絡返してくれなかったね」

「忙しかった」

「沙耶の結婚が決まってからずっと」

「友達だから」

啓吾は前を向いたまま聞いた。

「誰の?」

「沙耶の」

「俺とは友達じゃない?」

「そういう意味じゃない」

列が進み、二人の番が近づく。列を外れるには遅すぎる細い通路だった。

「沙耶が再婚したら、俺を好きになっていいと思った?」

汐音は息を止めた。

「思ってない。そんな許可を待ってたみたいに言わないで」

「じゃあ、どうして避けるの」

「友達だから。失いたくないから」

啓吾は何も迫らなかった。ただ「なら、先に沙耶と話して」と言った。

クローク係が汐音のコートを差し出す。外では最終バスがエンジンをかけていた。

汐音はスマートフォンを開き、沙耶とのトーク画面に『話したいことがある』と打った。指が震えたが、消さなかった。

「友達だから、隠さない」

三度目の言葉だけは、逃げではなかった。

送信を押した瞬間、バスのドアが閉まった。汐音は追わず、啓吾の隣で返信を待った。