収納欄には災厄一体

冬木叶が召喚された大広間には、最初から檻が置かれていた。

勇者候補の力を測るため、王国が捕らえた災厄級魔獣を見せるという。鑑定が終わるまでは七重の結界で眠らせてあるらしい。

叶が水晶へ触れると、表示は《魔力〇》のまま止まった。

「魔力ゼロ。荷物持ちにも容量が要るというのに、まるで空箱だな」

騎士団長が笑った。

叶には別の窓が見えていた。

《無限収納》

指定した対象を一度だけ収納する。生物、魔法、距離の制限なし。

見慣れたゲーム風の能力だ。だが試す前に、檻の中で山のような背中が動いた。

七枚の結界が、内側から順に砕ける。

災厄級魔獣ベヒモスが目を開けた。角が天井を削り、吐息だけで前列の騎士が倒れる。騎士団長は笑みを失い、聖剣を抜いたものの、足が動いていない。

王族を逃がす扉は、落ちた瓦礫で塞がれた。

叶は檻へ向けて手を伸ばす。

「空箱なら、入りますよね」

騎士団長が振り向く。

「何を――」

叶は一度だけ念じた。

《収納》

ベヒモスが消えた。

光にも煙にもならない。山ほどの肉体も、角も、咆哮も、最初から切り取られていたように一瞬でなくなる。壊れた檻だけが残り、遅れて巻き上がった埃が空の中央へ集まった。

叶の前に、小さな収納画面が開く。

《災厄級魔獣ベヒモス ×1》

《推奨売却額:王国予算二百四十年分》

《取り出しますか? YES/NO》

全員が、その最後の選択肢を見ていた。

騎士団長が剣を落とす。玉座の王は立ち上がり、両手を見える位置へ上げた。魔術師たちは結界を張り直すことすら忘れている。

叶は迷わず《NO》を押した。

ただし、それは能力の使用ではない。収納したものを出さないという意思表示だった。

王が深く息を吐き、叶の前まで歩み出る。

「空箱と呼んだ者を処罰する。望む待遇を申せ」

つい数秒前まで処分先を相談されていた叶へ、大広間の全員が道を空けた。

彼の収納欄に何があるか知る者は、もう誰も、その進路を塞ごうとはしなかった。