古竜オークションの落札者

王都地下の競売場で、フェルナは古竜ログラームを金貨一枚で落札した。

千年前に七国を焼いた竜だが、今は首と翼を封印鎖で縛られ、見世物にされている。誰も本気で買うつもりはなかった。落札者には、最初に竜の炎へ耐えて所有権を証明する規則があるからだ。

競売人バロウが笑った。

「支払い前に遺言をどうぞ」

「請求書は地上の解放院へ。鎖の代金も含めて」

フェルナは番号札を片手に、檻の前へ立った。そして封印鍵を自分で回した。

鎖が外れた瞬間、ログラームは礼など言わない。千年分の怒りを込め、目の前の人間へ炎を吐いた。観客席を守る結界が赤く染まり、競売人は机の陰へ隠れる。

炎の途中で、古竜は違和感を覚えた。

獲物が燃える手応えがない。それどころか、吐き出した熱が相手の輪郭で止まり、押し返されてもいない。ただ、価値のない硬貨を金庫へ落とすように、どこかへ消えていく。

煙が晴れる。

フェルナは番号札を掲げた姿勢のまま立っていた。札に書かれた「一」の墨も、長い睫毛もそのままだ。

「千年で弱くなった?」

その一言で、ログラームの瞳孔が細くなった。

「我を愚弄するな!」

竜の喉の奥に、黒い輪が生まれる。国ではなく大地の生命を焼く《冥底炎》。競売場の客は出口へ殺到し、バロウは金庫だけを抱えて逃げようとした。

黒炎がフェルナを呑む。床も檻も競売台も崩れ、地下空間が巨大な窯になる。

火が消えたとき、彼女は同じ高さに番号札を掲げていた。

瓦礫の隙間では、さっきまで値を競っていた貴族たちが声もなく縮こまっていた。金貨一枚の女を笑った全員が、彼女に守られた結界の内側でしか生きていない。

「私は不死者専門の解放人よ。火刑、溺刑、斬首。依頼人を逃がすたび、全部自分で受けてきた」

フェルナは札を裏返す。そこには解放院の紋章があった。

「あなたを買ったんじゃない。千年分の拘束契約を買い取ったの」

ログラームは周囲を見る。封印鎖は自分の炎で溶け、競売人は瓦礫の下で震えている。目の前の人間だけが、敵ではなかった。

七国を焼いた古竜は、番号札を持つ女から一歩退いた。