四つのボタンを押す手
牧ノ瀬柾は、右手のひらを投票盤へ押しつけた。
横一列に並ぶ四つの候補ボタンが、同時に沈む。
折笠翠と土岐村忍が叫んだ。
「一人を選べ!」
「そういう規則なら従ったよ」
壁にあるのは、次の一文だけだった。
〈集計音の瞬間、押下中の投票先に裏切り者が含まれる者を解放する〉
四人目の候補は、意識を失って椅子へ縛られた板橋路久。裏切り者は四人のうち一人だが、誰かは知らされていない。翠は忍のボタンを、忍は柾のボタンを指一本で押し続けている。
四つのボタンの間隔は、成人の掌幅よりわずかに狭い。柾は説明中、自分の手を物差しにしていた。柾は四つ全部を押した。投票盤は、一つ押すと他が戻るラジオボタンではない。独立したただの押しボタンだった。
『一人の参加者が複数へ投票することは、ゲームの趣旨に反します』
「趣旨じゃなく、機械と文面を確認した」
『投票先という語は単数です』
「日本語は単数と複数を形で区別しない。しかも『含まれる』と書いたのはそっちだ」
残り十秒。翠も手を広げようとするが、最初に押したボタンの周囲から金属枠がせり上がり、指を固定している。忍も同じ。主催者は投票変更を防ぐ仕掛けを用意したため、後から柾の方法を真似できない。
柾は開始直後、指先ではなく手のひら全体で触れた。四つの枠が同時に上がり、彼の手を盤へ縫い止めている。痛みはあるが、四灯は消えない。
集計音。
〈裏切り者、板橋路久〉
〈牧ノ瀬柾の押下先――四名〉
〈裏切り者を含む〉
柾の首輪が緑に変わり、金属枠が下がった。
翠が唇を噛む。
「推理もせずに全部押しただけ」
「全部押せるかを推理した」
柾は赤く跡の残った手を開く。
「主催者は、選択肢が並んでいれば人は一つだけ選ぶと思う。だから連動機構を省いた。演出費を惜しんだ穴だよ」
開いた扉の向こうで、四つの緑灯が一つの掌の形に並んでいた。