四十七秒のホーム
弟が事故に遭ってから、私は駅の黄色い線を踏めなくなった。
助けられなかったわけではない。そもそも私はその場にいなかった。それでも最後の電話を面倒がって切ったことが、十二年たっても足首へ絡んでいた。
朝の三番線は混んでいた。
前に立つ男が大きな鞄を背負い、何度もこちらへぶつけてくる。私は苛立ちながら、ホームの時計を見た。
秒針が四十七を指した瞬間、電車の風も、人々の瞬きも止まった。
次の一秒へ進むまで、私だけが動けた。
男の鞄を押し返そうとして、足元に気づいた。
彼の前には、小さな男の子がいた。人波に隠れ、私の位置からは見えなかった。子どもの靴が黄色い線を越え、体が線路側へ傾いている。
男は鞄をわざと横にして、人の流れをせき止めていた。伸ばした腕は、子どもの襟へ届く寸前だった。
私は子どもを抱え、線の内側へ戻した。
軽かった。弟も最後に会った頃は、これくらいだった。
止まった人波の中で、母親の手が空を探っていた。目はまだ子どものいた場所へ届いていない。男の肩には、誰かに押された跡があり、それでも踏ん張っていた。無関係な三人の動きが、事故になるはずの一秒を細い糸のようにつないでいた。
時計が進む。
電車がホームへ入り、風が吹き抜けた。
男の手は空をつかみ、子どもは私の腕の中で目を丸くした。すぐに母親が駆け寄り、何度も頭を下げた。
「あなたも」
私は男に言った。
「止めてくれていましたよね」
男は困った顔で鞄を背負い直した。
「邪魔だったでしょう」
「ええ。ものすごく」
そう答えると、彼は初めて笑った。
電車を一本見送った。
男も残り、自動販売機で温かい缶を二本買った。一本を渡され、断る理由が見つからず受け取った。名前も聞かなかった。
ホームが空くと、黄色い線はただの塗料に見えた。私はその手前に立ち、弟の古い番号を連絡先から消した。
忘れるためではない。つながらない場所へ、毎年電話するのをやめるためだった。
次の電車が来た。
時計の秒針は四十七を通り過ぎたが、何も止まらなかった。
乗り込む前、私は黄色い線を一度だけ踏んだ。
足首に絡んでいた十二年は消えなかった。それでも、今朝抱き上げた重さが、その隣に新しく残った。
救えなかった時間と、救えた一秒は、同じ場所にあってもよかった。